ザ・ホワイト・ストライプスが挑んだ音楽の「再定義」とは? 2000年代ロック最大の発見を振り返る

既存の「形式」から逸脱、コンセプチュアルなバンドの美学

先ほどホワイト・ストライプスのリファレンスとしてデルタブルーズを挙げたが、それをより強く感じるにはブレイク前の初期二作『ザ・ホワイト・ストライプス』(1999年)、『デ・ステイル』(2000年)に遡った方がいいだろう。

『デ・ステイル』収録の「ハロー・オペレーター」は、急発進と急停止を繰り返すようなホワイト・ストライプス特有のアンサンブルに乗せてジャックがブルーズギターを弾きまくる逸品(ハーモニカはゲストミュージシャンによるもの)。「デス・レター」はジャックが愛してやまないデルタブルーズの巨人、サン・ハウスのカバーだ。

The White Stripes - Hello Operator


The White Stripes - Death Letter (Live at Jay’s Upstairs June 15, 2000)


そして、『ザ・ホワイト・ストライプス』収録の「ザ・ビッグ・スリー・キルド・マイ・ベイビー」や「アストロ」は、いずれもデルタブルーズ発、地元デトロイトのストゥージズやMC5を経由したドス黒いブルーズパンクだと位置づけられる。

The White Stripes – The Big Three Killed My Baby


The White Stripes - Astro


もしかしたら、ホワイト・ストライプスに触れたことがない読者の中には、ここまで読んで以前彼らに投げかけられたのと同じ疑問を抱いた人がいるかもしれない。「これって単なるレトロ趣味の回顧主義なんじゃないの?」と。

だがそれは間違いだ。まず、そもそもホワイト・ストライプスは極めてコンセプチュアルなバンドだということを知っておかなくてはならない。構成主義の手法をヒントに、デビュー当初から赤、白、黒で徹底的に統一されたヴィジュアル(2ndアルバムのタイトル『デ・ステイル』は、モンドリアンが提唱した新造形主義を基本理念とするオランダの美術誌とそのグループの名前から取っている)。ジャック・ホワイトとメグ・ホワイトは元夫婦でありながら、姉弟と公言する謎めいた設定。そして何より重要なのは、やはりギター&ヴォーカルのジャックとドラムのメグだけという必要最低限「以下」のバンド編成を選択していることだ。

新しい何かを生むために必要なのは、既存の「形式」から如何に逸脱するかということ。ホワイト・ストライプスはこの特殊なバンド編成を選ぶことで、最初から「形式」の逸脱を目論んでいたのだろう。バンド編成をマキシマムに増やしたりメンバーの流動性を高めたりして自由度を上げるのではなく、敢えて不自由な2人だけの編成を選択したのも慧眼だ。これは、彼らが制約こそがクリエイティビティの源泉だと理解していたからにほかならない。つまり、ホワイト・ストライプスは歴史と伝統に繋がりながらも、既存の「形式」から逸脱することによって、それを更新することに最初から極めて自覚的だったということである。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE