米投資会社がテイラー・スウィフトの原盤権を約312億円で買収した理由

アメリカン・ミュージック・アワード2019でパフォーマンスを披露するテイラー・スウィフト(2019年11月24日、米カリフォルニア州ロサンゼルスのマイクロソフト・シアターにて)。 Kevin Winter/Getty Images


スウィフトの試みが成功することを祈る一方、ティルブルックは「恐ろしいほどの時間、手間、カネがかかる」と人気歌手に警告した。さらにティルブルックは、このシナリオで見過ごされている別の側面を指摘した。スウィフトは、今後リリースされるニューアルバムの原盤の所有者となるため、レコーディング費用を負担することになるだろう。仮に再レコーディングが赤字事業となった場合——これはあくまで仮定の話だが——スーパーボウルで放送されるコカ・コーラの大々的なCMに「Shake It Off」のオリジナルバージョンをシンクロさせたいというリクエストにゴーサインを出すまで、彼女はどれだけ持ちこたえられるのか(シャムロック・キャピタルが所有する楽曲のパブリッシング・ライツ※からもスウィフトは利益が得られることを忘れてはいけない)?
※パブリッシング・ライツ:シンクロ権をはじめ、音楽著作権に関する幅広い権利を指す。法律による定義はなく、米音楽業界で認められている用語。

テイラー・スウィフトの大人気伝記映画はどうだろう? 映画スタジオは、スウィフトが30歳ではなく、14歳、17歳、20歳のときにレコーディングした音源を使用するライセンスを取得しなければならないのだろうか? 映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)で私たちが目の当たりにしたように、こうしたプロジェクトは次世代リスナーの間でのアーティストの人気を飛躍的にアップさせることができる。もちろん、スウィフトはこの点を抜かりなくこなしており、今年発売のアルバム『フォークロア』は、スウィフト史上もっとも人気かつ評価の高いアルバムのひとつだ。だが、いまから数年後、彼女はブラウンへの憎しみを理由に魅惑的なチャンスを本当に跳ね除けるだろうか?

シャムロック・キャピタルは、そうならないことを祈っている。

理由 その3. グッズとマルチプルという魔法の言葉

10月末にスウィフトがシャムロック・キャピタルに宛て、今週SNSで公表した文書には、興味深い点があった。そこでスウィフトは、「シャムロック・キャピタル(とスクーター・ブラウン)の取り決めにより、スクーター・ブラウンとイサカ・ホールディングスが今後何年にもわたって私の音楽の原盤、ミュージックビデオ、アルバムのアートワークの金銭的恩恵を受けると知り、とても失望しました」と述べた。

シャムロック・キャピタルの所有物となったいま、スクーター・ブラウンがスウィフトの原盤から今後も収益を得られる理由を筆者はいまだによく理解できていないのだが、シャムロック・キャピタルが初期アルバム6枚のジャケットのアートワークの権利を所有あるいは共同所有しているという事実には、かなりのビジネスポテンシャルが秘められている。それによって同社は、数十億ドル規模のグッズ市場からかなり大きなスライスのパイを毎年手に入れられるかもしれないのだ。録音された音楽とは異なり、どうやらスウィフトは、こうしたグッズの複製を法的に禁じられているようだ。

シャムロック・キャピタルの原盤取得により、音楽業界に結果としてもっとも大きなインパクトを与えるかもしれないもうひとつの魔法の言葉がある——それがマルチプル(倍率)だ。

Hipgnosis Songs Fundを創設したメルク・メルキュリアディス氏のような創造的破壊者のおかげで、パブリッシング・ライツは、音楽出版社取り分(NPS)の15〜20倍といった倍率で取引され始めている。原盤権はこうしたトレンドに乗り遅れているものの、売られる頻度と倍率は低い。しかし、スウィフトとシャムロック・キャピタルの高額取引は、すべてを変えてしまうかもしれないのだ。

音楽史を代表する録音された音楽のカタログの代理人たちは、いまごろ舌なめずりをしているに違いない。テイラー・スウィフトの数枚の初期アルバムが投資家主導の現代のビジネスにおいて3億ドルの価値があるのだ。ドレイク、ザ・ビートルズ、マイケル・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストン、U2、マドンナ、レッド・ツェッペリンの初期アルバムにどれほどの値が付くか、想像してほしい。

シャムロック・キャピタルは、原盤権の倍率を瞬く間に跳ね上げる、投資熱の口火を切っただけかもしれない。だが、いずれ世間は、同社によるスウィフトの原盤取得を愚かな行為ではなく、うまい買い物とみなすようになるだろう。

>>関連記事:独占|テイラー・スウィフト、ローリングストーン誌インタビュー|完全翻訳版

著者のティム・インガムは、Music Business Worldwideの創業者兼発行人。2015年の創業以来、世界の音楽業界の最新ニュース、データ分析、雇用情報などを提供している。ローリングストーン誌に毎週コラムを連載中。

Translated by Shoko Natori

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