重症心身障害児の親たちがコロナ禍で抱えるジレンマ

コロナの影響で子供へのサービスが完全リモート化、またはすべて中断された

いわゆる「平常時」には、そうした子供を持つ親は教育サービスや医療サービスの提供を学区内の学校に頼っている。障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act、通称IDEA)により、障害児は各自のニーズに応じて、理学療法からスピーチセラピー、教員助手や介助者に至るまで、各種教育サービスを無料で受ける権利が法律で認められている。とくに低所得世帯はこうしたサービスに依存しており、特別教育を受ける生徒のなかでも低所得世帯や有色人種が圧倒的多数を占めている。

ところが3月、COVID-19に伴いロックダウンが敷かれると、子供へのサービスが完全リモート化、または多くの場合すべて中断されることになり、こうした家庭は慌てふためいた。「おそらく特別支援学級の生徒のほぼ全員が、IEP(個別教育プラン)に何らかの支障をきたしているでしょう」とベアーズ医師は言う。

特別支援学級の生徒たちが、この春から初夏にかけてのロックダウンの時期をどう乗り切ったかを示すデータは非常に少ない。だが2020年7月、ラトガーズ教育大学院の国立初等教育研究所が全米1000人の就学前児童を対象に調査を行ったところ、IEP学習を受ける生徒のうち全面的にサービスを受けられたのはわずか37%だった。一方で、25%の生徒が連邦法ではサービスの提供が義務付けられているにもかかわらず、なんのサービスも受けられなかったことが判明した。

サービスが中断された結果、全米各地の学区を相手に親たちが集団訴訟を起こすケースが複数の州で発生。ニューヨーク市教育局(NYC DOE)などを相手に10州200人以上の原告団が起こした裁判では、パンデミック中に受けられなかったサービスの金銭的補償と、全ての対面サービスの即時再開を求めている(NYC DOEは声明を発表し、「当局はこの夏、障害をもつ生徒を対象に各種対面サービスを提供しております。衛生当局の指導のもと、生徒の利益を最優先に行動しつつ、訴訟内容を吟味してまいります」と述べた)。

ハワイ州教育局を訴えた別の裁判では、パンデミック中に重要な発達目安や技能を達成できなかった生徒に対する補填サービスの提供を学区側に求めているが、弁護士のキース・ペック氏によると、学区側はいまだに同意していない。

【画像】介護椅子での生活だが、両親や友人とは特殊な音声装置でコミュニケーションできる(写真3点)

Translated by Akiko Kato

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