今月は、10月7日にリリースされる佐野元春さんの『MOTOHARU SANO GREATEST SONGS COLLECTION 1980 - 2004』と『THE ESSENTIAL TRACKS MOTOHARU SANO & THE COYOTE BAND 2005 - 2020』を中心に改めてそんなお話をお訊きできたらという1ヶ月です。今週はこの曲から。1992年7月発売のアルバム『Sweet16』から「ボヘミアン・グレイブヤード」。
田家:というわけで、佐野元春さんです。こんばんは。よろしくお願いします。
佐野元春(以下、佐野):こんばんは。
田家:先週は1990年に発売になったアルバム『Time Out!』まで辿ってみました。1989年の天安門事件やベルリンの壁崩壊などを、ヨーロッパから見ていた佐野さん。1980年代後半の佐野さんのテーマの一つが「ボヘミアン」でした。このアルバム『Sweet16』の中では「ボヘミアン・グレイブヤード」、ボヘミアンのお墓でありました。今週はこの曲から始めたいと思うのですが、やっぱり1980年代とは何か違うところがあったんでしょうね?
佐野:年代で区切って気分が変わることはない。強いて言えばいつも次の作品をアップデートしたいと考えている。
田家:このアルバムの全曲解説の中で、この「ボヘミアン・グレイブヤード」に関して、「子供の頃からの幻、ボヘミアニズム、ヒッピーニズムにさよなら。そしてそれらを剥ぎ取った作品が『Sweet16』だった」と、お書きになっていました。
佐野:そんなこと書いてたんだね(笑)。
田家:やっぱりボヘミアニズムやヒッピーニズムに対する考え方が変わってきていた?
佐野:成長するに従って視野も広がってくるし、10代の頃の影響に囚われるのもどうかと。
田家:一つの幻想、つまり世の中が変わったりすることや子供の頃からの何かが失われたり新しいものを身につけていく中で、やっぱり幻想だったと思う瞬間が来たりする?
佐野:まぁ、良い幻想と悪い幻想があるけどね。
田家:なるほど。「ボヘミアン・グレイブヤード」はボヘミアンのお墓ですね。
佐野:まぁ、そんなところです。
田家:実際に誰かのお墓に行ったり?
佐野:あー。その頃自分が主宰していた『THIS』という雑誌の取材で、ジャック・ケルアックという、米国の作家の墓参りをした記憶がある。墓参りしたから書いたわけでもないんですけどね。
田家:代表作『路上』の方ですね。10代の頃の体験っていうのは、何を教えてくれたんですか?
佐野:イメージは言葉の意味を超える。そういうことを学んだ。
田家:この曲はボヘミアンのお墓というテーマを扱いながら、曲は明るいですよね。
佐野:この曲のメインポイントはお墓じゃない。別れた女の子のことを想っている切ない気持ちがメインポイント。お墓はどうでもいい。
田家:歌詞の中にも出てきているブルーベリーパイとかシナモンチェリーというのはそういうニュアンスなんですか?
佐野:そこにはあまり深い意味を込めてはない。僕が好きな菓子だ。
田家:ジャケット写真もそれでしたもんね。
佐野:写真のパイはホールじゃなくて、いくつかピースが欠けている。そこがメインポイントだ。
田家:やっぱりメインポイントがあるんですね。この『Sweet16』は代表作のアルバムの一つになっていますが、このアルバムについては今どんな風に思っていますか?
佐野:その前のアルバム『Time Out!』の評判が今ひとつだったので、一念発起して作ったのが『Sweet16』だ。
田家:何度か出ている幻や、子供の頃からの幻想を捨てたという。
佐野:まぁ捨てようと思っても捨てきれないものもあるよ、世の中には。
田家:簡単に捨てるとは言うけれども、作ってる人は色々なものが身体の中にあるわけで、この部分は捨てましたなんて言えないでしょうし。
佐野:本当に捨てるんだったら黙って捨てる。これを捨てるよ、なんて言ってるうちは未練があるって話だ。
田家:佐野さんの40年間は幻想を捨て去ることの40年間だったとは言えますか?
佐野:それは違う。ポップ音楽自体が大きな幻想で、僕は今もそれに携わっている。
田家:ポップミュージックは大きな幻想である。いい言葉ですね。さて、今回の佐野さんのGREATEST SONGS COLLECTIONのディスク3が、佐野さんの40年の中でも大きな意味を持っているのではないかと思って今週お送りしております。ディスク3の1曲目、1993年1月発売のアルバムタイトル曲をお聴きいただきます。「ザ・サークル」。