WONKの江﨑文武が語る、常田大希や石若駿ら同世代と共有してきた美意識

WONKの江﨑文武(Photo by Kana Tarumi)


東京大学大学院での研究
日本の音楽教育に対する違和感と提案

ー江﨑さんは東京大学の大学院で「幼児の音表現支援」の研究をされていたそうですが、それも楽器にまつわることだったのでしょうか?

江﨑:僕の研究は、自分のルーツというか、藝大に楯突く研究をやってました(笑)。要は「なぜ未だに音楽教育が楽器を使って行われているのか?」っていうのがすごく疑問だったんです。歴史を紐解いていくと、明治維新で「学制」が発表されて、「小中は義務教育」ってなったタイミングで、西洋的な音楽を教育のカリキュラムに盛り込むことが重要だと政府が発表した。というのは、西洋式の軍隊を作りたいと思ったときに、軍楽隊の存在が非常に重要だと。で、西洋式の楽器を演奏して、曲を作れることが国力を高めるという認識が生まれて、学校教育の中で音楽をやることが重要だってなったんです。

ーなるほど。

江﨑:だけど、そのタイミングで西洋式の教育のメソッドを知ってる人は誰もいなかったから、アメリカに人が派遣されて、帰ってきて、「音楽取調掛」という政府の機関ができて、それが東京音楽学校になり、東京藝術大学になったっていうルーツがあるんです。で、明治の初期にアメリカに行って、見聞を広めてきた人が帰ってきて言ったのが、まずはみんなができることとして歌を歌うことが重要だと。向こうではそれに対して、先生がピアノ伴奏をすることで教育がなされているっていう報告がされたんです。幼稚園の先生になるためには、ピアノが弾けないとダメじゃないですか?

ー当然のこととしてそうなってますよね。

江﨑:驚くことに、そこに関しては100年ずっと変わらずに来てるんです。でも実際の保育の現場を見ると、やっぱりピアノ演奏って障壁が高いじゃないですか? ピアノ以外にも、ピアニカやリコーダーもやるし、そうなると技術習得一辺倒の教育に映ってしまう。音楽の本質は表現をするところにあるはずなのに、誰も自分で自分の曲を作ったことがないまま教育を終えてしまうんです。みんな自分の絵を描いたことはあるじゃないですか? なぜみんな音楽は作らないのかって考えると、楽器で教育をするってところに難しさがあるのかなって。

ー楽器習得が先に来ることで、むしろ音楽に対する苦手意識が芽生えちゃったりもするでしょうしね。

江﨑:でも、WONKの活動を始めて、ヒップホップのトラックメーカーとかと交流すると、みんなちゃんとした音楽教育は受けてないのに、自分で好きな曲を作って発信してるわけです。彼らの話を聞くと、技術的な障壁が取っ払われたことで、表現する喜びに駆動されて、ここまで来たんだなと感じて。それって非常に価値のあることだなって思うんです。未だに音楽教育の分野って、音楽大学を出て、西洋式の教育を受けた人が偉そうなことを言っている雰囲気があるんですが、学校教育とは離れたところでスキルを身につけたビートメーカーの人たちの表現や、学習プロセスから学べることはめちゃめちゃ大きいぞって思うんですよね。

ーそういう状況を踏まえて、実際大学院ではどんな研究をされていたんですか?

江﨑:幼児向けに作ったサンプラーをiPadに入れて、幼稚園で好きな音を録ってもらって、音を並べて、曲を作る、みたいなことをやってみました。結果、電子機器で一定の制作環境を与え、少しチュートリアルしてあげれば、幼児には身の回りの環境音を音楽的な要素として捉えるポテンシャルが十分に秘められていることがわかりました。たとえばカエルの鳴き声みたいな音を作りたいからって、厚紙を絨毯にこすって録音する、みたいな、専門家がやるような音制作を平気でやってのけるんですよ。僕の立場としては、最終的に音楽は表現であるべきで、誰もが技術習得に時間を割く必要はないんじゃないかなって思っているんです。

ーもちろん、楽器自体を否定するわけじゃなくて、順番の話ですよね。最初から技術習得を強いられるんじゃなくて、まず「音で表現をすることって楽しい」という体験をすれば、自然とそのあとには楽器に興味を持つだろうし、その方が広がりもあるというか。

江﨑:そうなんです。なので、僕は幼児を対象としていて。幼稚園とか小学校のときに音でなにかをやるのが楽しいってなったら、きっと中学でバンド始めたりするじゃないですか? 教育の仕方によって、全然変わってくると思うんですよね。

Edited by Yukako Yajima

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