原摩利彦×森山未來が語る、コロナの現実を受け入れるための表現

「Passion」の訳語:情熱ともうひとつの意味

─「Passion」のミュージックビデオは、4月に京都で撮影されたと聞きました。コロナウイルスの感染拡大もあった中で、どうやって実現したのでしょうか?

原:未來さんには3月の頭に僕の方からオファーをしていたのですが、コロナウイルスの感染拡大もあって、撮影は延期したいと申し出たんです。東京と京都の移動だけでもリスクがある状態なので。

森山:ちょうど僕も京都にいたんです。複数のプロジェクトのために建仁寺の中にある両足院というお寺で2週間ほど滞在していた。両足院は祇園にある禅寺なので、朝6時30分から座禅を組んで作務(庭掃除)をして、読経をしたりしつつ昼過ぎから(ダンスの)クリエイションを始める……そういう毎日を過ごしていて。でも、コロナの影響でいくつかのプロジェクトが中止、または延期になってしまった時期だった。

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左から、森山未來、ダンサー・振付家の大宮大奨、nouseskou。両足院で合宿をしながらクリエイションをした。

原:せっかく未來さんが京都にいるのだから、と。ものすごいスピードで意思決定して、進めていただきました。

森山:ちょうど撮影が終わった次の日に緊急事態宣言が出ましたね。

─まさにコロナ禍の中で生まれた作品。

原:そうなってしまった……。アルバムのタイトルにある「Passion」という言葉の意味合い自体も、コロナ禍において自分の中で変わっていきました。

─どう変化したのでしょう?

原:「Passion」という言葉は「情熱」のイメージが強いですが、実は訳語では「受難」の意味もあるんです。

─2つの意味って全然違うような。前者は能動的で、後者は受動的な印象。

原:そうですね。相反する意味がひとつの単語に充てがわれている。諸説ありますが、「Passion」はラテン語の「Pati」が語源らしく、これは「耐え忍ぶ」「経験する」といった意味なんだそうです。

もともと、このアルバムは自分の音楽を始めて20年が経ったひとつの区切りの位置づけだったんです。振り返ると、中学生の時に音楽家になることを決めてから、常に相反する2つの気持ちがあると思って「Passion」というタイトルを付けました。

─2つの気持ち?

原:若い頃は「音楽家になる!」という情熱的な縦方向の気持ちしか持っていなかった。でも、音楽活動を続けていく中で、幸福感もあれば苦難もあった。それを受け入れながら続けていくうちに、音楽に対するパッションは、静かなものに変化していったんです。「清濁併せ呑む」というか。酸いも甘いも受け入れながら、音楽を続けていきたいという想いがありました。

今回、16歳のときに作曲した楽曲「Inscape」も挿入したり……。



─16歳!

原:キャリアを歩み始めたときの作品って少し恥ずかしくないですか?(笑)青いというか……。「Inscape」には「C on E」のコードの美しさに衝撃を受けた喜びが溢れている。それが自分の手癖にもなっているのですが、今の自分としては恥ずかしい部分もいれてみようと。

─酸いも甘いも、他者も混ぜ込んでひとつのアルバムに。「Passion」のMVに森山さんが出演されているのも、そういう意図があったのでしょうか?

原:はい。他者と自分を混ぜ合わせることで、本質が見えるような、広がりを見たかった。未來さんにお願いすることで、僕自身が気づいていないエッセンスや本質が見つかると思って。お任せで作っていただきました。

アルバムを制作しているうちに、コロナウイルスが猛威をふるうようになっていき、そういう受け入れがたい現実や存在にどう向き合っていくのか……個人としての想いから社会の方に眼差しが向かっていきました。「Passion」のMVは、自分のそういった気持ちの変化も汲み取ってもらったような気がしています。

─個人から社会への眼差しといった意味合いに変化していった、ということでしょうか?

原:そうですね。世の中には受け入れたくないことがたくさんある。過去の自分もそのひとつですが(笑)、異なる意見もそうですし、人間の力では及ばない自然現象もそう。でも、僕たちはみんな同じ世界に生きているのだから、自分の置かれている状況を拒むのではなく受け入れていきたいという気持ちになっていきました。

でも、翁面のアイディアを聞いたときは驚きましたね。どういう着想だったんだろう……?



森山:翁面は、実はコロナ禍によって無くなってしまった別のプロジェクトの中から生まれていたアイデアが繋がっていったものなんです。「Passion」はピアノ一本ですごく美しい曲なので、シンプルにコンテンポラリー的な振り付けにするとサラっとしてしまう気がしたんです。「合うだろうけれど、おもしろいのか……?」と思っていたので、何か異質な要素を入れてみたいなぁと思っていて。

─原さんの「Passion」へのイメージと似ていますね。

森山:そうですね。摩利彦からもらったコンセプトがもちろん出発点です。僕自身もパッションという言葉には能動的なイメージしか持っていなかったので、受難が語源に含まれている点が面白く感じて。対照的とか二面性、表と裏……っていうところからクリエイションが始まりました。

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