原摩利彦×森山未來が語る、コロナの現実を受け入れるための表現

今の状況で苦しんでいる人間。自然の側から見ると…

─MVで森山さんが後ろ向きに進む振り付けになったのは何故でしょう? ほとんどのシーンが背中で表現されていて。

森山:表側から見ると後退しているわけだからそれはある種パッシヴに見えているけど、背面から見るとアクティヴに見えているような表現はないんだろうか……と、kouたちと身体を動かしながら撮影している間に出来上がっていった動きです。

kouの動きが素晴らしいのはもちろん、ゆったりとしたパーカーを着て、両足院でクリエイションしているというギャップがそもそもおもしろいなと思い始めて、そのうちに、ふと翁面をつけたらどうだろうと思いついた(笑)。


両足院でダンスをする森山。nouseskouもパーカーというカジュアルな出で立ちだったが、森山自身も寺社の雰囲気とは異質な格好をしていた。当初は、このギャップがおもしろいと衣装もカジュアルな方向性でもいいと模索されたという。

─「ふと、翁面」っていうのがすごいですね。

森山:両足院って祇園のど真ん中にある禅寺なんです。すごく静謐な時間と欲望の渦巻きが表裏一体にある場所。そこに2週間籠もって座禅を組みながらkouたちとクリエイションして生活しているうちに、コロナの感染拡大がひどいことになってきて。

─観光客もどんどん減って。

森山:そうですね。日に日に街から人がいなくなって静かになっていく。銭湯行くのもビール飲むのも「どうなんやろう」って思いながら過ごしていたんですね。今、この状況とか時勢を見ていて、普通に仕事がなくなったり、自粛しなくちゃいけなくなったりして、不安を感じたりもする。



表を向いている人間は少し不安げな表情をしている。情熱の象徴的な色として、赤い衣装が最終的に採用された。

森山:この面は、今ではあまり使われなくなった黒式尉という能面のひとつなんですが、翁というのはそもそも、五穀豊穣、天下泰平の象徴らしいんです。

コロナウイルスが世界中で猛威を奮っている中で、空気とか海が綺麗になったというニュースもある。今、人類は苦しんでいるけれど、地球全体の状況で考えると、もしかして翁は喜んでいるかもしれない。表の人間側はビクビクしているけど、裏側の翁はこの時間を謳歌している……それを背面で表現できたらいいなと。



森山:「Passion」のコンセプトにも合うし、このアイデアは絶対面白いと思いつつ、摩利彦に突飛なアイディアだと思われるかもしれないなと、内心ビクビクしてましたね(笑)。

原:最初はびっくりしましたけど、映像を見たときに「救済」を感じました。未來さん演じる人間の裏にいる翁面は確かに不気味に見えますが、角度によっては微笑んでいるようにも見える。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE