追悼コービー・ブライアント:NBA2年目、19歳当時の密着ルポ完全翻訳

レイカーズの遠征期間中、チームメイトたちがレストランやナイトクラブに出かける時も、ブライアントはホテルの部屋にとどまっていることが多い。ロサンゼルスの自宅にいる時は、寝室からよく友人に電話をかけるという。「夜中の3時とかに電話をかけてきて、一晩中一緒にライムを書いたりしてるんだ」高校時代からの友人であるAnthony Bannisterはそう話す。

ブライアントはBannisterが率いるラップグループ、Cheizawのメンバーだ。Bannister(彼はブライアントとの電話で、毎回最後に一緒にお祈りをしている)は同グループについて、「啓発的な内容をライムする、スピリチュアルなラップが基本」としている。コービーのヒップホップネームは、Kobe One Kenobe the Eighthだ。「スター・ウォーズ(のオビ・ワン)にちなんでるんだよ」Bannisterはそう話す。「だってやつはスターだからさ」

ブライアントのバスケの選手としてのスーパースターダムを押し広げるべき時が来たら、同グループは去年フィラデルフィアでレコーディングした曲をシングルとしてリリースする予定だという。その曲で、ブライアントは次のようにライムしている。「俺はオフェンスラインを突破する/お前のライムをコケにする/お前のマインドの視界を封じる/お前の金をかっぱらう/深呼吸して取り掛かる/試合は唐突に終わる/虚しいフィールドゴールのアドバイスなんてノーサンクス/文脈はジレットの5枚刃よりも複雑でシャープ/マイクのルーレットをシャッフル/お前の部屋番号を確かめる/俺は人差し指を慣らす /息をつき読みあげる/Cheizawの死刑宣告」

「やつは狂人さ」Bannisterはそう話す。「やつのリリックのセンスには脱帽させられる。スキルも半端ない。ナズかと思うくらいさ」

昨シーズンの終わりに、取材現場のショッピングモールで彼と初めてまともに言葉を交わした時、筆者はすぐに好感を抱いた。その前に会った時のコービー・ブライアントはチャーミングだったが、見えない壁のようなものでどこかを距離を置いていると感じた。ちょうどお昼時だったため、ブライアントはお気に入りのスポット、つまりフードコートに直行した。カリフォルニアのあらゆるファーストフード店が揃ったそこで、若き億万長者は何を食べるか迷っていた。忘れてしまいがちだが彼はまだ10代であり、ショッピングモールに出かけることはいい気分転換になるという。最近ではアーサー・アッシュ、マイケル・ジョンソン、イベンダー・ホリフィールド、ジェリー・ライス等の自伝を読んだという彼は、以前にシベリアンハスキーの子犬を購入したペットショップの前で立ち止まった。

「もう一匹飼うかもしれない」彼はそう話した。「でも本当に飼いたいのはトラなんだ」

筆者は耳を疑った。トラだって?

「そう、虎!」目を輝かせながらブライアントはそう話した。「タイソンは3匹飼ってるんだ」

その頃、ブライアントとマイク・タイソンは親友同士だった。「彼とは何でも話すよ」ブライアントは楽しそうにそう話していた。「彼と話すと、君も驚くと思うよ」。しかしその1年後、ブライアントの彼に対する考えは変わっていた。タイソンとはまだ親しくしているかと尋ねると、ブライアントはややためらいながらこう言った。「最近はあまり話してないんだ。彼が成し遂げたことと、あのアグレッシブさはリスペクトしているけどね」

ブライアントはまだ19歳だが、彼がわずか1年の間に精神的に大きく成長したことは明らかだ。それは彼の身振りや言動にも現れている。彼はナイスガイというイメージ(実際に文句なしのナイスガイなのだが)を脱ぎ捨て、ごく普通の人間らしい一面を見せることをためらわない。

フィラデルフィア警察との一悶着について話が及ぶと、ブライアントの表情は険しくなった。昨シーズンの頃は決して見せなかったような顔だ。高校時代に続き、彼は先日理由もなく車を停止させられたという。「腹が立ったよ」ブライアントはそう話す。「マジでムカついた。でも口論したって何の得もないから。おとなしくしているのが利口さ。ただ言われる通りにしたよ、見えない殺意を向けながらね」

Translated by Masaaki Yoshida

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