追悼コービー・ブライアント:NBA2年目、19歳当時の密着ルポ完全翻訳

自身のスターダムについて、ブライアンは自分なりの考えを伝えようとしている。「僕はいつかリーグにおける最高の選手の1人になりたいと思ってた」彼はそう話す。「でも、今すぐそういう存在になることを求められるとは思ってなかった。誰もが僕を、次のマイケル・ジョーダンとして見ている。そういうスポットライトからひっそりと逃れるつもりだったけど、どうやら他の道を選ばないといけないみたいだ」

1年という歳月の間に、物事は大きく変化する。筆者が最後にブライアントに会った時、彼は様々な思いがジェットコースターのように上下したシーズンを経て、契約更改の交渉に臨んでいた。彼はリーグのスラムダンクコンテストで優勝し、ルーキーのオールスター大会で史上最高得点(31点)を記録した。その一方でレイカーズの試合では、彼はジャージを脱ぐことになるかどうかもわからないままベンチで控えていることが多かった。そして今、彼の名前はもはやチームの看板となっている。「皆ことを急ぎすぎだし、プレッシャーを与えすぎている」Harrisはそう話す。「彼はいろんなものを引き寄せすぎている。あの若さにして既に、彼は複合企業のような存在になってしまっている」

“KOBE BRYANT, Tiger Woods. … Tiger Woods, Kobe Bryant.”

「コービー・ブライアントとタイガー・ウッズ…タイガー・ウッズとコービー・ブライアント」

2人の対面は、大企業のマーケティング戦略から生まれた企画というよりも、単なる18歳と21歳の若者同士の出会いといった雰囲気だった。ウッズはNikeのアンバサダー、ブライアントはAdidasの「kid with a dream」というスローガンの顔という役目を担っていた。両者の対面が実現したのは、昨シーズン半ばのことだ。ウッズはコービーに挨拶しようと、バンクーバー・グリズリーズを破った直後だったレイカーズのロッカールームを訪れた。

「18歳か」ブライアントと握手を交わしながら、ウッズはそう口にした。「ようやく自分よりも若いアスリートに出会えて嬉しいよ」

2人は各ブランドの商品の広告塔だった。有名アスリートをCMに起用し、キャッチコピーとともにその商品を売った後、彼らが身につけたアクセサリーも売るというのが最近のマーケティングの定石だった。プロのチームと契約するよりも前に、ブライアントはアディダスと契約を交わしていた。「まだ選手として評価されてなかったのにね」彼はそう語っている。「僕は自分にハッパをかけるつもりで、あの話を受けることにしたんだ」

「バスケ以外の道でも、コービーは成功していたと思う」ジョー・ブライアントはそう話している。「彼が優れているのは運動能力だけじゃない。その人柄や、優れた自己管理能力も彼の魅力だ。だから彼が成功するのは目に見えていたよ、その2つの長所を別々に生かそうとしていたしね。でもバスケ選手としてのインパクトに彼の人柄という魅力が加われば、まさに鬼に金棒だ。マイケル・ジョーダン級のメガスターだって夢じゃない」

練習を終えたコービー・ブライアントは、セットアップのジャージに着替えると、愛車の黒のBMW740iに乗り込んだ。彼が向かう先はビーチだが、ブライアントの目的は付き人を従えてのんびりすることではない。海に到着すると、彼は車をGold’s Gymの駐車場に停めた。彼は帰宅前に、いつもここでもう一通りワークアウトをこなす。ビーチとそのジムは、彼が毎日のように訪れるほとんど唯一の場所だ。

ブライアントはパシフィック・パリセーズ(すぐ近所では映画『ベイウォッチ』の撮影が進行中だ)に、6ベッドルーム+6バスルームの一軒家を借りている。彼はそこで両親と、Santa Monica City Collegeに通う20歳の姉Shayaと一緒に暮らしている。彼のもう一人の姉で現在22歳のShariaは今年、フィラデルフィアにあるTemple Universityを卒業した。彼女の専攻科目は国際ビジネスであり、在学中はバレーボール部に所属していた。

「俺の両親は離婚してたから、俺はよく(ブライアント家に)入り浸ってた」Matkovはそう話す。「コービーの父さんは俺にとっても父親みたいな存在で、すごく幸せな時間を過ごさせてもらった。彼らはみんな嫌がるんだけど、俺はあの一家のことをよく『ゆかいなブレディー家』に例えてた」

一部の人々はその破格の10代の若者が挫折することを望んでいるが、ブライアントの今の生活は実のところ、これまでに送ってきた人生の延長に過ぎない。彼を育んだのは周囲の環境であり、そのシンプルな環境には常に名声とリングがあった。「遠征中、翌日に試合があるのに遊びに出かけるのが僕には理解できない」ブライアントはそう話す。「プロとしての自覚が足りないと思うね」

Translated by Masaaki Yoshida

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