折坂悠太が語る「生の日本」と「層」の話

折坂悠太(Photo by Kazuki Iwabuchi, Photo Direction by Hiroaki Nagahata)



折坂悠太の音楽が「懐かしくも新しい」って言われる理由

―88risingの盛り上がりもあって、近年は世界的にアジアへの注目も高まっていて、それもいまの「ローカル」という話に繋がるかと思うのですが、折坂さん自身は「日本」というアイデンティティをどの程度意識されていますか?

折坂:僕が10代後半から20代前半の頃は、はっぴいえんどを聴いて、すごく日本っぽいと思ったのと同時に、言葉遊びのような面白さを感じたんですね。はっぴいえんどの真ん中にあるのはやっぱりアメリカのポップスで、それを日本語を使って本気でやろうとしたときに、サウンドと合わせるために、古い言葉を使ったり、ちょっと遊ぶような感覚でやっていた節があるのかなと思う。僕はそれが大好きで、コピーもして、めちゃめちゃ影響を受けました。その上で、自分はそれとは違うことをやりたいと思って、それが何かっていうと……より泥臭い、生の日本というか。

―「生の日本」とは?

折坂:西洋の音楽に日本語を乗せたっていうんじゃなくて、例えば、歌謡曲の人って、浪曲だったり、もともとルーツにあるものをやっていた人が、そのときの流行りを取り入れて、違うサウンドになっていったんだと思うんです。どちらかというと、僕もそっちをやりたい。ただ、自分がそういうルーツをめちゃくちゃ持っているかっていうとそうじゃないので、僕も言ってみれば真似っ子なんですけど、やりたいことのイメージとしては、日本ということを意識してない、元々日本しか知らない日本人が、底に流れてるもの、育つ中で身に着いた肌感覚を使って、音楽をやる。で、そこにいまの潮流も乗っかってくる、みたいなイメージ。だから、「層」になってるものがやりたいというか。

―底にあるのは意識するまでもなく身に着いている「生の日本」で、その上に「世界の潮流」がレイヤーとして重なる、みたいな?

折坂:この前沖縄に行ったんですけど、街を見てると、その場所の歴史が見えるんですよ。沖縄のお墓って大きくて、動かせないし、その上から何かを作るっていうのは考えられないから、その周りにビルが建っていて、普通の繁華街の真ん中にいきなり大きな墓地があったりして、街の歴史が層になってる。僕の音楽もそうしたいと思っていて。さっき歌謡曲の話をしたみたいに、トラディショナルな音楽がまずあって、それを歌う人がいて、そこにポップスが入ってきて、より広く聴かれるようになる、そういうことがやりたくて。

―「層」の話にも通じると思うんですけど、折坂さんの音楽はよく「懐かしくも新しい」って言われると思うんですね。その「新しい」の部分っていうのは、さっきも言ったビートメーカーの参加だったり、生音にしてもミックスが今っぽかったり、いろんな要素が複合されてると思うんですけど、折坂さん自身は「新しさ」をどの程度意識していますか?

折坂:音の面では特に……「今っぽくなっているか」って、結構気にしてるかもしれない(笑)。音源を作るときは、何十年先まで聴かれたいっていうのがあるので、「今の音をやろう」っていうよりも、単純に「いいものにしよう」って思って作るんですけど……そう言いながらも、「今っぽくしよう」っていう頭はどこかにありそうな気がします。それを「思ってない」っていうのは、嘘になりますね。

―音の面ではやはりエンジニアの中村公輔さんの存在は大きいと思うんですよね。それこそ、今のヒップホップやR&B周りにもお詳しいと思うし。

折坂:中村さんはすごく研究家なので、今だけじゃなくて、各時代の音にすごく詳しいんです。若い人とやったら、「今っぽい」とか意識する以前に今の音になると思うんですけど、中村さんはそこの違いを分かってるのが面白くて、「このリヴァーブをかけると80年代っぽくなる」とか「この時代はこのコンプばっかり使っていた」とか、スタジオで作業しながらいろいろ遊んでいて。なので、音楽のタイムトラベルを一緒にやっている感覚なんです。僕が聴いてきたのも今のものばっかりでも、古いものばっかりでもなく、バラバラなので、中村さんとやって、いろんな地点に行けるのは楽しいんですよね。この前は「レディオヘッドの『KID A』はこのエフェクトばっかり使っている」っていうのを試させてもらったり(笑)。特にどこの時代を目指すというわけではなく、遊びながら、曲によって何を目指すかが変わってくるので、そのカラーを自由に変えられるっていうのも、中村さんとやる面白さですね。もしかしたら、「今」でさえもどこかの時代だと捉えているかもしれない。



―大局的な視点を持って、タイムトラベルをしながら音楽を作る。だからこそ、浪曲のような歌い方でも、どこか未来っぽく聴こえたりするんでしょうね。

折坂:『平成』の前までは、フォークの文脈で語られることが多かったんですけど、フォークミュージックも伝わっていくものだから、特に「古い」音楽ということではなく、時代時代でアップデートされていくのがフォークミュージックだと思っていて。なので、僕はフォークミュージックにもタイムトラベル感を感じるし、その意味では、演奏形態は当時とは変わっても、やろうとしていることは変わってないのかなって。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE