折坂悠太が語る「生の日本」と「層」の話

折坂悠太(Photo by Kazuki Iwabuchi, Photo Direction by Hiroaki Nagahata)



「自分の足元を見て、ローカルな感覚で世界と繋がりたい」

―「朝顔」はドラマ主題歌ということで、作品に寄り添う部分と、独立した自分の楽曲であるという部分と、そのバランスはどう考えましたか?

折坂:目指したのは、ドラマの曲としてもバッチリだし、自分の歌としても今後長く歌い続けられるものにしたいと思って……思ったより大変でしたけど、できたとは思っています。



-特に何が大変でしたか?

折坂:やっぱり、自分だけじゃないってことですかね。今までは曲を作って、オッケーを出すのも、ダメ出しをするのも自分だったけど、今回はもっと関わる人がいて……。

―判断をする人が自分以外にもいるという難しさがあったと。

折坂:そうですね。自分も先方もどちらも納得できるものにするために、レコーディング中も含めて、結構長い時間やりとりをしました。「この画に乗っける歌詞でこれは強過ぎる」とか、結構細かくあって。なかなかこういうことは起きないので、充実した作業でした。

―ドラマのタイトルであり主人公の名前でもある「朝顔」がそのまま曲のタイトルにもなっているのは、もちろんドラマに寄り添っていると思うんですけど、ただ3月に配信でリリースされた「抱擁」でも〈ああ 選べぬ朝を迎え 気づきだした ひとつのこと〉と「朝」について歌われていたし、「朝顔」では〈ここに 願う 願う 願う 君が朝を愛するように〉と歌われていて、平成から令和へと移行したこのタイミングで、「朝」を題材にすることは、折坂さん自身の作家性も強く感じました。

折坂:それは自分の生活と関わっていると思います。音楽をやっていると、どうしても夜中心の生活になりますけど、僕には奥さんも子供もいるので、家にいるときは朝早く起きて……起こされて(笑)、子供が保育園から帰ってきたら、ご飯を食べて、お風呂入って、寝るっていう、日中の生活がメインになるわけです。これは音楽を始めたときから思っていることで、僕の周りには常にアンテナを張っているような音楽好きもいるんですけど、その向こうにもちゃんと届けたいというか、普段から音楽を聴いているような人以外にも、「なんかいいね、この曲」って思ってもらいたくて。なので、「朝顔」も「抱擁」も、そういう目線で、自分の中の生活者としての感覚から生まれた気がします。



―その意識って、歌い方にも反映されていると言えますか? 「朝顔」の歌唱はもちろん折坂さんらしさがありつつ、平歌の低くてフラットな感じはとても新鮮でした。

折坂:そこは意識的にそうした部分で、それこそ今の音楽の潮流と関係していて。例えば、ビリー・アイリッシュってめちゃくちゃソリッドな音楽だと思うんですけど、つぶやいて歌うじゃないですか?高らかにワーッて歌ったり、叫んだりはしない。フランク・オーシャンにしても、激しく歌うっていうより、スッと入って来る感じだし、そっちの歌い方の方が、素のその人に近い気がするんです。話し声に近いというか、語りと歌の差、ポエトリーリーディングと歌の境目ってなくなってきているような気がして。



―ラップと歌の境目がなくなってきているのとも通じる話でしょうね。

折坂:そうですね。ラップがあれだけ受け入れられてるのも、語ってるからなんじゃないかと思っていて。『平成』のときはがなるように歌う歌もあったけど、今はもっと近いところで歌いたいっていう感じに変わってきています。“朝顔”はそういう意味ですごく意欲的な一曲になったと思っていて、今のJ-POPはやっぱり高いピッチでワッと歌うのが、サビだと特に主流だと思うんですけど、僕もそれに倣った部分もありつつ、でも冒頭はすごくつぶやいてる。それも「層」だと思うんですよね。僕は圧倒的にJ-POPを聴いて育っているわけで、いわば、そこにルーツがあるわけじゃないですか?

―好みというより、育ってきた環境としてってことですよね?

折坂:そうです。そこに層のように外国の音楽の感じが入ってきて、サビとAメロ、Bメロでこれだけ違うのは、ちょっとキメラ感があるというか(笑)。

―一番最後の浪曲的なパートがよりキメラ感を感じさせるわけですが(笑)、このパートは最初からあったんですか?

折坂:最初から思い描いてました。ドラマのために「こうでなくちゃならない」っていう部分が出てくるだろうっていうのは最初の段階で思っていたけど、それで自分臭さが薄れちゃうのはつまんないなって思っていて。ただ、別にそれを誇示したいわけではなく、僕も100%を出すし、ドラマにも100%寄り添う曲にしたかった。もちろん、あの部分もドラマとまったく関係ないとは思ってないし、100%の自分で向き合っていく決意の表れですね。

―最後に自分のハンコを押すようなイメージというか。

折坂:結果的に、今まで作った曲の中で一番オリジナリティのある曲になったと思います。強烈な匂いのする曲になった気がしますね。

―そんな曲が令和最初の「月9」に使われるっていうのも、平成からの変化を感じさせますよね。

折坂:ドラマ自体、すごくソリッドだと思うんですよ。月曜9時のドラマで、震災をあれだけちゃんと扱うっていうのは、ドラマを作る側もそれだけの決意があったと思うし。

―『平成』には「もしかしたら、時代は悪い方向に向かっているのかもしれない」というどこか緊迫したムードもあったように思うんですけど、その不安感とどう向き合っていくのかが、令和という時代の課題のように感じます。

折坂:『平成』は一曲一曲に個人的な想いが入っていたんですけど、大きな物語として時代を見ている部分もあるにはあったと思っていて。でも、平成が終わって、令和が始まって、「俺たちからこれからこうしていこうよ!」って、大きい括りで話ができるかって、今の日本でそれはすごく難しいと思っていて。やっぱり、細かく分断が進んでいて、身近な知り合いや親戚でさえ、話が通じないことってあると思う。じゃあ、そこにどう希望を見出すかを考えると、「朝顔」で歌っているように、どういう朝かはわからないけど、その人がその人の朝をちゃんと愛せるように生きてほしいっていう、そこからじゃないと話が始まらないというか。今直面していることを、大きく括らないで、その人その人の生活を丁寧にやっていくことでしか、社会とは繋がれないし、何かを変えることもできない。それは世界各国いろんなサイズで起きていることだと思うんです。もっと自分の足元を見て、ローカルな感覚で世界と繋がりたい。それをホントに細かいレベルでやっていきたいと思います。

折坂悠太
鳥取県生まれ。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりライブ活動を開始。新曲「朝顔」はドラマ『監察医 朝顔』(フジテレビ系)の主題歌に起用された。
http://orisakayuta.jp/

Edited by Yukako Yajima


<INFORMATION>


「朝顔」
折坂悠太
デジタル配信中


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