黒人カウボーイ文化の今 リル・ナズ・Xが与えた影響

ベテラン・ロデオライダーのジャスティン・コリー・リチャード氏(Photo by Diwang Valdez for Rolling Stone)



リル・ナズ・Xをきっかけに注目を集める黒人カウボーイ文化

「ジャスティン・コリー・リチャードは、ビル・ピケット招待選手ロデオ大会で見た中で一番のカウボーイだよ」と言うのは、オクラホマ生まれのコマンチ族のサム・ハウリー氏。ビル・ピケットで20年もアナウンサーを務めるベテランだ。

リチャード氏の職業に欠かせない伝統的なカウボーイの衣装は、「黒人カウボーイ・ムーブメント」と呼ばれるようになった現象のような、単なる飾りやコスチュームとは違う。かつてプロのカウボーイの伝統的なイメージといえばほとんどが白人だったが、今はそれも変わりつつある。リル・ナズ・Xのこの夏のヒット曲「Old Town Road」が全世界で大ブレイクしたのを受け、リチャード氏をはじめ黒人カウボーイのコミュニティは国際的な注目を浴びるようになり、ロデオコミュニティの裾野も広がった。文化的対話からはしばしば除外されてきた歴史的に重要な構成要素、アフリカ系アメリカ人の西部時代の伝統を残そうという動きも起きている。



リル・ナズ・X――初めて馬に乗ったのはロデオ大会の1カ月前だったそうだ――は「本物のカウボーイじゃない」とリチャード氏は言う。「でも、彼のおかげで黒人ロデオのコミュニティにポジティヴな関心が集まっているのはいいね」 。昨年リチャード氏は生まれ故郷のテキサス州ヒューストンで、意図せず俳優デビューを果たした。ソランジュ・ノウルズのビジュアルアルバム『When I Get Home(原題)』でカウボーイのスタントを担当したのだ。リチャード氏は33分間のショートムービーをまだ見ていないどころか、プロジェクト名すら覚えていないという。「1日がすごく長かったのと、衣装がすごく窮屈だったことしか覚えてないな。でも少なくとも、金は払ってもらったよ」と本人。

ランディ・サヴィー氏いわく、スタントマンの仕事は黒人カウボーイの主な収入源になりつつあるという。彼はNPO団体Compton Cowboysの幹部メンバーで、街から不良少年を一掃し、アフリカ系アメリカ人やコンプトンのネガティヴな固定概念を払拭しようと努めている。彼曰く、リル・ナズ・Xのヒット曲以来、生粋の黒人カウボーイを探し求める企業やブランド、映画会社の重役からの問い合わせが増えているという。「この1年、馬に乗ってコンプトン中を回っていると誰もが『Old Town Road』の歌詞を叫んでくるんですよ」と彼は言う。「コミュニティからの支持は変わりません。みなさん、我々のことは設立当時から知っていますからね――地元以外の人々が応援してくれるようになりました」

もちろん、黒人カウボーイは今に始まったものではない。スミソニアン協会によると、白人の牧場主が南北戦争で出征した際、黒人奴隷は牧場運営に必要なスキルを覚えた――その記事によれば、約4人に1人のカウボーイが黒人だったそうだ。奴隷解放後、牧場主らは北へ拠点を移し始め、新たにスキルを身に着けた牛追い人は家畜を移動させる仕事にありついた。白人が圧倒的に支配する業界で、黒人または混血であることは、有色人種のカウボーイたちが結束することを意味する。乗るか死ぬかといった心持ちが、現代の黒人の仲間意識へと進化した。それはロデオ大会で互いに戦うときであっても、だ。「仲間の一人がアリーナに投げ出されたり怪我したときは、すぐに駆け付けて助け合うんだ」とリチャード氏も言う。さらにビル・ピケットのロデオ大会では、出場者はみな自分の番が終わると、飛び出し口まで駆け戻り、次の出場者が準備するのを手伝う。

Translated by Akiko Kato

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