黒人カウボーイ文化の今 リル・ナズ・Xが与えた影響

ベテラン・ロデオライダーのジャスティン・コリー・リチャード氏(Photo by Diwang Valdez for Rolling Stone)



楽ではない現実を乗り越えるための愛

リチャード氏は18年前、ヒューストン郊外のウォートンカウンティジュニアカレッジでロデオの奨学金を授与され、それをきっかけにプロの道へ進んだ。だがロデオへの情熱は生まれたときから刷り込まれていた。リチャード氏の母親リサは彼が最も影響を受けた人物だ。54歳の彼女は今も現役でロデオ大会に出場している。出場するのはもっぱらバレルレース。高い技術を要求される馬術種目で、ライダーは戦略的に置かれた3つの樽をきっちり周り、最速タイムを競う。非常に危険な演目なので、一般的には若い選手向けと言われている――だが昨年夏、リサはテキサス州デイトンのBar-N-Barロデオ大会で優勝した。さらに62歳になるリチャード氏の叔父ハロルド・ミラー氏は、アリゾナ州ウィッケンバーグのシニア・プロ大会の常連だ。

もう一世代さかのぼると、リチャード氏の祖父キャストン・リチャード・シニアは当時、ロデオ大会用の牛を飼育していた。リチャード氏自身も引退後に挑戦しようと思っている仕事だ。とはいえやはり、巡業三昧の生活は楽ではない。大会間の移動は3頭積みの馬匹運搬車と小型住居トレーラーが必要だ。これを最大4人の出場者で共有する。リチャード氏はロデオの賞金だけでやりくりし、スポンサーからの資金や副業、政府の補助金には頼っていない。だがロデオ出場者の大多数が、生計を立てるために「定職」を持っているという。

正看護士、弁護士、トラック運転手、建設作業員、消防士、大学生――あらゆる職業の人々がこの競技にほれ込み、熱心に応援し、自ら出場もする。妻であり、母親であり、カウガール2世でもある38歳のクリショーン・アデア氏は、テキサス州農業省の検査官。「情熱を追い続けるにはフルタイムの仕事が必要よ」と言う。同じくカウガール2世で21歳のリーミア・クレモンス氏も、ウォールマートの会員制スーパーSam’s Clubでカスタマーサービスの責任者をしている。「大勢の人々が、ロデオを続けたくて二足のわらじを履いているの。私もロデオのために仕事してるのよ」

リチャード氏は36歳。プロのロデオライダーの平均的な引退年齢を「とうの昔に」過ぎてしまった。Professional Bull Ridersという組織の主任医師を務めるタンディ・フリーマン医師によれば、大半のカウボーイが24~25歳で引退するという。「第一に、毎回給料が入るかどうかはわかりません」とフリーマン医師。ロデオの場合、たいてい賞金は出場者が自腹を切って支払ったエントリー費から捻出される。移動、食事その他雑費を考慮に入れると、儲けはほとんど手元に残らない。プロのロデオカウボーイとして長く成功し続けられるかどうかも定かではない。

獲得賞金額が700万ドルを超える32歳の白人ライダーJ.B.モーニー氏は、Professional Bull Riders史上最高額の賞金王だ。そんな彼でも、保証は何もないと念を押す。「けがをしても給料は支払われます、なんて書かれた契約書はないからね」 彼は1月、フォーブス誌のインタビューでこう語っている。「乗らなきゃ、金は入らない」 また、身体的にもかなりきつい。「落馬したり、牛に振り落とされて地面に叩きつけられたら、ライダーは軟組織や胸部、腹部、肢をやられてしまいます」とフリーマン医師は説明し、こう付け加えた。「毎回乗るたびに、生きるか死ぬかなんですよ」


ジョージア州コンヤーズのビル・ピケット招待大会で、牛から振り落とされるジャスティン・コリー・リチャード氏(Photograph by Diwang Valdez for Rolling Stone)

7月にロサンゼルスで行われた大会の準々決勝で、23歳のアフリカ系アメリカ人ライダー、リック・レディック氏は、牛の背中から振り落とされ彼の身体は地面に叩きつけられた。牛の後肢はしばし宙にとどまった後、彼の胸部に振り下ろされた。観客は恐怖で息をのんだ。「2階からレンガの入った袋を落とされたみたいな感じだったよ」とレディック氏。彼は後日、レベル3の肝損傷と診断された――フリーマン医師によると「命を落としてもおかしくない」重傷だった。

言葉の端々に南部訛りが見え隠れするレディック氏の家系をたどると、三世代前にはミシシッピー州フィーバにたどり着く。彼はカリフォルニア州の田舎町マデラで、自宅近くで初めて馬に乗った時のことを振り返った。地元の白人男性が何度も何度も「撃たないでくれ、ジャンゴ!」と叫んだ。だがレディック氏は、西部開拓時代に黒人カウボーイたちが果たした歴史的役割をもっと多くの人々が正しく認識するようになれば、人種の違いも受け入れやすくなると考えている。「みんな口にするのは白人カウボーイのことばかり。だけど俺たちは何世代もずっとこれをやっているんだ」と本人。「教育は大事だよ」

Translated by Akiko Kato

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