スティーヴ・ジャンセンが語るジャパン時代、「静かに音楽を作ってきた」40年の歩み

40年を経て辿り着いたエグジット・ノース

─あなたが今やっている音楽は、いわゆる大衆的にアピールするポップ・ミュージックとは異なるものですけど、もう「売れるものを作らなくてはいけない」という呪縛からは完全に解き放たれましたか?

スティーヴ:うん。僕がミュージシャンとして育ってきた時代というのは、レコード会社を喜ばせるような音楽をやるというのが必須条件だった。彼らが満足すれば制作費を出して、僕らにレコードを作らせてくれるわけだからね。作品を作ったら、今度は宣伝して売れる状況を作り出していく。しかし今の僕にとって、自分のやりたい音楽というのはメインストリームにはなり得ないものなわけで、昔のやり方ならば、発表してもおそらく投資した分を取り戻すことはできないだろう。そんな風に思われている中で、自分が本当にやりたい音楽とビジネスのバランスを取るのは難しかったよ。でも90年代の半ば以降はインターネットが登場したこともあって状況が大きく変わり、インディの世界だけで活動してる人も出てきたよね。機材の面でも技術の発展によって、必ずしもスタジオを借りなければできないというわけではなくなった。それによって往年のレコード会社のあり方も変わってきて、音楽だけを純粋に配給したいという僕らみたいなアーティストにもチャンスが広がったと思う。そういう背景があるから、いわゆるポップなマーケットに自分が参加していく必要は、今は感じてないよ。

─そうは言っても、40年以上音楽を続けてきた中で、「もう続けていけない」と心折れそうになったことはないですか?

スティーヴ:そりゃあるよ。でもそれは音楽が嫌になったということではなくて、自分が仕事としてやっていることに幸せを感じられなくなった状況があったからなんだ。音楽で身を立てていく上では、当然、あまり気の進まない仕事を、食べていくためにやらなくてはいけないこともあった。そういう時期は長くやっていればどんなミュージシャンにでもあることじゃないかな。ただ、僕の場合は音楽以外に出来ることがなかったからね。他に得意なことでもあれば別の仕事に就こうかと考えたかもしれないけど、僕にはそういう選択肢がなかったから(微笑)。



─エグジット・ノースについて4人の共通項、共有しているヴィジョンは何ですか?

スティーヴ:チャーリー(・ストーム)はメンバーの中で一番若いんだけど、たまたま僕の大ファンだそうで、今まで僕がやってきたことを僕以上に知ってる人なんだ(笑)。だからか、僕がやりたいと思うことを察知する能力がすごくてね。チャーリーはスウェーデンではかなり名のあるプロデューサーで、普段は主にダンス・ミュージックを手がけているんだけど、なかなかこの手の音楽をやる機会がない中、エグジット・ノースは自分が聴いて楽しめる音楽を作るチャンスだと感じてくれてるらしい。

トーマス(・フェイナー)はミニマル系のヴォーカリストで、以前ソロ・アルバム(前出の『Slope』)を作った時に一緒にやったんだけど、彼の声は僕の音楽と相性が良いと思った。それで今回また一緒にやることにしたんだ。

ピアノを弾いているウルフ(・ヤンソン)はトーマスが連れてきたんだけど、彼が弾くピアノの独特なコード進行、メロディの絶妙なバランスはいわゆる普通の音楽とは違った、変わった構成で、とても惹かれた。

そうして揃った4人の共通点は、そんな簡単に説明できるものではないけど、音楽におけるエモーションを伝える上で、僕らは似たようなアプローチをしているかもしれない、ということは言えると思う。クラシックの人たちもそうだと思うけど、曲の中のモーメントごとに自分の大事なものを見つけていくというやり方、そして何を重視して何を伝えたいかということに対して真剣に取り組むことが出来る、ということは共通しているね。みんな、決して人間性が真面目というわけではないけど(笑)。


チャーリー・ストーム(Photo by Masanori Naruse)


トーマス・フェイナー(Photo by Masanori Naruse)

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ウルフ・ヤンソン(Photo by Masanori Naruse)

─あなた以外の3人はスウェーデンの人ですけど、彼らの中に“スウェーデンらしさ”を感じることはありますか?

スティーヴ:あるな。一つは、みんなゆったりした気質というか、レイドバックしてるということ。今回、日本に来る前に 6週間くらいゴセンバーグ(ヨーテボリ)で一緒に過ごしたんだけど、そう感じることが多々あったよ。ゴセンバーグは静かで伝統的な街並みでね。みんなが伝統を大切にする雰囲気が伝わってきたよ。あと、これはあくまでイギリスとの比較においてだけど、愛国心も旺盛なようだね。

Translated by Kazumi Someya

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