スティングが日本で語るポリスからの40年、グレタ・トゥーンベリと福島への想い

スティング、2019年10月7日の福岡公演にて(Photo by 田中紀彦)

スティングがポリス時代を含む自身の楽曲を、新たな視点でレコーディングし直した「ベスト盤」ともいえるアルバム『My Songs』を5月にリリース。それを携えての日本ツアーが10月7日の福岡国際センターを皮切りにスタートした。本稿は、その翌日に東京で行われたインタビューである。

「孤独のメッセージ」「見つめていたい」といったポリス時代のクラシックスから、「セット・ゼム・フリー」「フラジャイル」「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」などソロ名義での名曲まで、誰もが一度は耳にしたことのある楽曲ばかりが並ぶ本公演は、文字通り「ヒットパレード」。ロックやパンクのみならず、ジャズやソウル、レゲエなどあらゆるジャンルを取り込みながら、独自のセンスでブレンドしていくそのミクスチャー感覚は、現在のヒップホップやインディーR&Bなどを通過した耳で聴くとその先見性に改めて驚かされる。会場にはリアルタイム世代のファンのみならず、次世代、次々世代の若者たちがたくさん詰めかけているのも納得だ。

音楽家としてだけでなく、環境問題にいち早く取り組んできた活動家としての側面も持つスティング。彼はグレタ・トゥーンベリ氏による先のスピーチや、福島で起きた原発事故、さらには香港でのデモなど昨今の世界情勢を、どのように捉えているのだろうか。また、「無類のラーメン好き」としての一面も持つ彼に日本への愛もたっぷりと語ってもらった。


音楽とは、大きなテーブルのようなもの

─今回は自身のベスト・アルバムともいうべき『My Songs』を携えてのツアーですが、手応えはいかがですか?

スティング:ツアーを回っていて自分でも驚くのは、「あ、これヒットしたな」「この曲も売れたっけ」みたいな感じで、とにかくヒット曲が多いことなんだ。別に高飛車になっているつもりはないのだけど(笑)、これだけの楽曲を世に出せたことに対してとても感謝しているし、それを40年近くこうやってパフォーマンス出来ていることをありがたく思っている。感謝以外の何物でもないよ。



─昨日は福岡公演だったんですよね?

スティング:そう。ものすごく若い人たちが観に来てくれて、前列にもたくさんいたのは本当にびっくりした。もちろん、その中には僕と同世代の人も混じっていたけど(笑)、それって40年間やり続けてきたからこそ見られる光景だよね。あらゆる世代の人たちが楽しんでくれているのは、自分にとっても素晴らしい体験だよ。

思えば僕も若い頃、自分のヒーローたちの演奏をよく観に行った。主にジャズだったけど、マイルス・デイヴィスやソニー・ロリンズのような、今の自分よりももっと年上のミュージシャンの演奏を毎晩のようにね。今の僕は68歳で、こうやって音楽をやっている。そしてそれを、あの頃の自分と同じくらいの若い人たちが観にきてくれていることに、ある種の「責務」も感じているよ。「歴史の授業」としてではなく、ちゃんとリアルタイムの音楽として楽しんでもらっていることに対してね。



─実際、今作『My Songs』を機にあなたの音楽を知った若いリスナーも大勢いると思います。とりわけポリスは、レゲエやジャズ、プログレなどのエレメントを取り込みつつ、シンプルなパンク・サウンドへ落とし込んだその音楽性が、のちのバンドにも多大なる影響を与えました。元々は、どんなバンドにしたいと思って始めたのですか?

スティング:ポリス自体はスチュワート・コープランド(Dr)のバンドなんだよ。彼が僕の(当時組んでいたラスト・イグジットでの)ベース・プレイをものすごく気に入ってくれて、「どうしても参加してほしい」と言われて加入したのが結成の経緯でさ。当初は「パンク・バンドをやろう」ということでスタートしたのだけど、やっていくうちに元々自分が好きだったレゲエやジャズの要素を取り入れたいと思うようになったんだ。

音楽というのは、いわば大きなテーブルのようなものだと思っている。そこに、端からフォークやブルース、ジャズ、ロック、クラシックというふうに、様々なジャンルを並べていくというかさ。それを全部自分の中に取り入れたら、一体どんなことになるのかがものすごく興味があったんだ。

Translated by Kana Muramatsu

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