【密着ルポ】現代のロックスター的存在、トラヴィス・スコットの日常

ヒューストンに構えた豪邸の内部

再び勢いを増した雨の中、スコットのランボルギーニはヒューストンの北東側の郊外にある現在の自宅へと向かっていた。彼は数年前に、9600平方フィートを誇るその豪邸を約200万ドルで購入したと言われている。途中でジェンナーからFaceTimeコールがあり、画面にはプライベートジェット機内でカメラを興味深そうに見つめるStormiが映っていた。「ご機嫌だな。ヘイ、ベイビー!」。スコットはそう語りかける。「カリフォルニアに帰っちゃうのかい? わかってる、本当はテキサスにいたいんだろ?」。Stormiがはしゃぐ姿をしばらくの間見せた後、ジェンナーは「じゃあね」と言って電話を切った。「あの表情を見たかい?」。スコットはうれしそうにそう話す。

彼の自宅に到着した我々は、玄関で靴を脱いだ。白の大理石の床は土足厳禁だ。スコットは筆者を、2階のベッドルームに案内してくれた。室内には『マッド・マックス』や『ゼイリヴ』等、古い名作SFのポスターが一面に貼られていた。「俺は映画が大好きなんだ」スコットはそう話す。寝室に入ると彼はしゃがみ、ドアの隣にある缶ジュースの自販機のコンセントを差し込んだ。無造作なままにしてあるベッドの上には、マルチカラーのウォーホルのモチーフをあしらったスケートボードが幾つも飾られている。

バスルームのシンクの脇には数千ドルはあると思われる20ドル札の束があり、テーブルの上にはそれを上回る額の100ドル札が平積みされていた。ルイ・ヴィトンのモノグラムのキャリーケースの中には、光を反射している高級腕時計が見える。中でもとりわけ目を引くのは、ダイヤルに地球のイラストがあしらわれ、ベネズエラのカラカスやモロッコのリアドなど各大都市の現在時刻がわかる、パテック・フィリップのワールドタイムだ。その数フィート先には、ターミネーター2とザ・シンプソンズのアーケードゲームが置かれている。筆者が懐かしいと口にすると、スコットはこう話した。「子どもの頃、これ以上に欲しいものなんてなかったからな」

ここにあるのは、彼の中の子ども心をくすぐるものばかりだ。しかし彼は父親になったことで、2年前にはまるで関心がなかったことを気にかけるようになったと話す。政治や温暖化現象はそのひとつであり、後者については特に危機感を覚えているという。「マジでさ、この問題を解決するために、今の俺たちに何ができるのかを真剣に考えるべきだと思う。父親になると、それまで気にも留めなかったことに関心が出てくるんだよ」

彼が考えているのは、遠い未来のことばかりではない。彼は現在ツアー中だが、曲作りは継続しているという。「俺はいつだって曲を書いてる」。彼はそう話す。『アストロワールド』に続く次回作では、プロモーションの一環として舞台を企画することを検討しているという。アストロワールド・フェスティバルを毎年恒例のイベントにすることも計画のひとつだ。さらに彼はハーバード大学の大学院で建築について学び、自宅を彼の思い通りに改築することを考えているという。天井まで届く本棚はその一例だ。

「見てな」。そう言って彼が本棚を手前に引くと、彼が寝床にしている小部屋が現れた。床一面に敷かれたカーペット、ライマメの形をしたソファやオットマン、そして写真フレームなど、そこに置いてある家具の大半は人工芝で覆われている。「グリーンハウスって呼んでるんだ」。スコットはげらげら笑いながらそう話す。その直後、彼は筆者を残して部屋を出ていった。ミーゴスのオフセットに電話をかけ、コラボレーションについて話し合うことになっているのだという。外を見ると、雨はいつの間にかやんでいた。現在ヒューストンは午後7時、リアドは午前4時、アストロワールドの時計は何時を示しているのだろうか。筆者を外へと連れ出し、スコットはグリーンハウスの扉を閉めた。



Translated by Masaaki Yoshida

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