【密着ルポ】現代のロックスター的存在、トラヴィス・スコットの日常

スコットとジェンナーの出会い

スコットとジェンナーの交際は2017年4月から始まった。コーチェラでスコットに恋をしたジェンナーは、そのまま彼のツアーに同行し、彼もまた彼女に夢中になっていった。出会ってから数週間が経った5月上旬のある日、ジェンナーは彼の子どもをお腹に宿し、2018年2月に生まれた娘はStormiと名付けられた。「最初は男の子だったらいいなと思ってたんだ」。彼はそう話す。「だから女の子だって知った時、正直ちょっとがっかりした。でもしばらくして、そんなことはどうだっていいって気づいたんだ。Stormiが生まれた時、人生で味わったことのない喜びを感じたよ」

ジェンナーは今日、自身が運営する化粧品ブランドのプロモーションでヒューストンに来ていた。彼女は電話越しに、なるべく早くプライベートジェットで発ちたいと彼に伝えた。スコットの携帯電話が示した待ち合わせ場所までの所要時間は31分だったが、彼は「あと10分で着くよ」と言って電話を切った。そして高速道路で車を次々に追い抜いていった結果、先述のランドローバーに道を阻まれることになったのだった。

助手席に座っていた筆者が、ランボルギーニのエアバッグの感触はどんなだろうと想像した瞬間、スコットはハンドルを鋭く左に切り、車間5フィートのところで衝突を回避した。それが高級イタリア車の優れたエンジニアリング技術によるものなのか、スコットが吸い続けているハイブリッド大麻によって研ぎ澄まされた反射神経のおかげなのかは不明だ。いずれにせよ、我々は無事に待ち合わせ場所だったBest Buyの駐車場に到着し、運転手付きのエスカレードの中央でスコットを待っていたジェンナーと合流した。彼女はピンクのシルクのパンツスーツ姿だ(Stormiはベビーシッターに預けられていた)。

「ハーイ」。ジェンナーは笑顔で出迎えた。彼がエスカレードに乗り込むと、ボディガードがスモークばりのガラス越しにペペローニピザの箱を2つ手渡した。トラヴィス・スコットにとって、この1年はこれまでの人生で最も充実した1年であり、今日もまたその素晴らしい時間の一部だった。

ジェンナーと別れた後、彼は決して恵まれているとは言えなかった幼少期を過ごした場所を、筆者のために案内してくれるという。ランボルギーニのハンドルを握ったまま、彼は電話をかけた。「おばあちゃん、今家にいる? もうすぐ着くから」。スコットの祖母Sealieの自宅は、ヒューストンの南東に位置する労働者階級中心の地域にあった。そこに向かう途中、彼はさびれたガソリンスタンドに立ち寄った。当日はスコットの専属ビデオグラファー(マレットヘアで元は皿洗い、現在はWhite Trash Tylerの名前で時折モデル活動をしている)が同行しており、彼の行動を逐一カメラに収めていた。どんなに退屈でありふれた場所であっても、トラヴィス・スコットがフレームに収まるとその印象は一変する。

そこには他に2台の車が駐まっていた。給油ポンプのそばにあるサビが目立つビュイック・センチュリー、そして端に寄せられた日産セントラだ。ランボルギーニはただでさえ目立つが、スコットの愛車のドアには「Lamborgini」の筆記体ロゴを地面に煌々と映し出す小型プロジェクターが取り付けられている。マットブラックのメルセデスで常に我々の後ろにつけているスコットのボディガードは、片時も彼のそばを離れない。「よぉトラヴィス、写真を撮らせてくれよ。俺も曲を作ってるんだ。」室内用スリッパ姿で水たまりの上に立ったある若者はそう語りかけ、携帯のカメラを起動させた。


Photo by Dana Scruggs for Rolling Stone

お気に入りのマリファナたばこを切らしていたスコットは、スタンド内のショップに入った。「Backwoodsをくれ。箱ごとな」。彼は店員にそう言った。カウンターの上にはピスタチオの袋と付けまつ毛の他に、豚足の漬物が入った16オンスの瓶が置き去りにされていた。スコットと店員を隔てた防弾ガラスには、「フードスタンプ機能不全」と手書きで記された紙が貼ってあった。Backwoodsを手にショップから出てきた彼は、スリッパを履いた若者と写真を撮った後、ビュイックの中から聞こえてくる声は無視し、そのまま車に乗り込んで走り去った。

筆者の真後ろに座ったWhite Trash Tylerの隣にいるのはスコットの高校の同級生であり、フォートワースで足治療医として開業したばかりのネイトだ。「こいつを知らないやつはいなかったよ」。彼は高校時代のスコットについてそう話す。「フリースタイルを披露したり、おどけてみせたり、カフェテリアでランチをとってるやつらを片っ端からやりこめたりね。思ったことをはっきりと口にする、愉快なキャラさ」

Translated by Masaaki Yoshida

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