フジロック’24総括 絶体絶命のピンチを乗り越えて生まれた「奇跡」

ザ・キラーズ(Photo by Chris Phelps)

「FUJI ROCK FESTIVAL’24」が7月26日(金)、27日(土)、28日(日)に新潟県湯沢町・苗場スキー場で開催された。7月25日の前夜祭から4日間でのべ96,000人が来場。新たな試みとして導入された「金曜ナイト券」「Under 18チケット」「キャンプ・ヴィレッジ」「FUJI ROCK go round」も好評を博した。Rolling Stone Japanで毎年恒例の総括レポート、今年は大幅拡張して3日間の模様を振り返る。

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2024年のフジロックはいくつもの「奇跡」で満ち溢れていた。SZAキャンセルの大ピンチから形成逆転となるショーを届けてくれたザ・キラーズは、ワタルというニューヒーローも生み出して話題をさらった。クラフトワークがMCを披露したのも驚きかつ感動的だったし、ステージに際限なく観客が駆け上がっていくターンスタイルの大団円は、苗場開催25回目を迎えたこのフェス屈指の名場面として語り継がれることだろう。もちろん、ミラクルが生まれたのはヘッドライナーやメインステージだけではない。フジロックの楽しみ方に正解はなく、会場を思い思いに歩き回れば最高の音楽を発見することができる。その尊さを例年以上に再認識させられた。

渋さ知らズオーケストラ、ノーネームなど国内外の出演者が「フリー・パレスチナ」を訴え、ROUTE 17 Rock'n'Roll ORCHESTRAのゲストとして登場した後藤正文が「イマジン」を日本語で歌った一幕も忘れがたい。英グラストンベリー・フェスと反核・脱原発イベント「アトミック・カフェ」をルーツに持ち、音楽と政治は地続きであることを示してきたフジロックの精神が、今も健在であることを実感させられた。

Amazon Musicによって生配信が復活したこともあり、SNS上でも大いに盛り上がった今年。おおむね好天に恵まれた会場では、昨年以上に海外からのオーディエンスが目立った。現在のフジロックは日本のリスナーが「海外の今」を知るのと同時に、海外の人々が「日本の今」に触れる機会にもなっている。転換期の真っ只中にあるこのフェスが来年以降も成功しつづけることを祈りつつ、GREEN STAGE、WHITE STAGE、RED MARQUEEのハイライトをまとめた総括レポをお届けする。(小熊俊哉)

※以下、当日の出演時間順に掲載



◎1日目・7月26日(金)




indigo la End
11:00〈GREEN〉

ウィンドシンセを用いたサマーアンセム「夜風とハヤブサ」と、川谷絵音がSGでノイズを撒き散らしながらステージに倒れ込むオルタナなロックナンバー「晩生」がバンドの二面性を象徴していたインディゴ初のフジロック。「コロナで出られなかった2021年はREDだったけど、今年はGREENに出れて嬉しい」という言葉がそのままこの3年における活動の規模感の広がりを示し、「今日はこの曲をやるために来ました」と言って、その変化のキーとなる「夏夜のマジック」を演奏したのがこの日のハイライトだった。最後に新曲の「盲目だった」が演奏されたのは、日本武道館公演のアンコールで「名前は片想い」が初披露されたことを思い出させるもの。ポストロック風のアルペジオを用いた「盲目だった」は、バンドの原点を踏襲しつつ、それを現代に更新していく予告の一曲だったかも。(金子厚武)

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Friko
14:20〈GREEN〉

愛すべきバンドである。デビューアルバムが日本のApple Musicの総合チャートで最高10位まで上り詰めるという成功を受け、GREEN STAGEに抜擢されたフリコの2人(とサポートの2人)は日本のオーディエンスからの歓迎が嬉しくてたまらないといった感じで、ニコ・カペタンの「風里鼓」バンダナも何とも微笑ましい。「Crimson To Chrome」で始まったライブはその勢いと4人全員で歌うコーラスがやはりアーケイド・ファイア(あるいは、ウルフ・パレード)を連想させつつ、ギターが2人ともアームを用いてノイズを鳴らした「Crashing Through」はソニック・ユースのようで、「For Ella」ではドラムのベイリー・ミンゼンバーガーがニコのギターで音響的なアプローチを見せたりと、音楽性の広さも印象的。終盤に披露された「Where We’ve Been」はすでにアンセムになっていて、11月の再来日も盛り上がること間違いなし。(金子厚武)

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Erika De Casier
14:30〈RED〉

デンマークから来たエリカ・デ・カシエールの歌は、ふとした瞬間にギュッと心を鷲掴みにする。油断できないシンガーだ。ドラマーのJ. Ludvig lllに遅れてステージにふらっと現れたエリカの佇まいは驚くほど軽やかで、純度100%な透明感のある歌声はまるで暑さなど知らないかのようだ。ヘヴィなネオソウルに化けた「Photo of You」やブレイクビートに生まれ変わった「Little Bit」など、ラグジュアルなサウンドにただただ身を任せる。「Home Alone」や「Ice」では間の取り方や感情の込め方に演技力の高さを感じた。ドラムパッドでビートの音色を曲毎に細かく使い分けていたのは、繊細で多様な心情の機微に寄り添うためだ。ピアノフレーズが印象的な「Lucky」や「e-motions」での感情の溢れだすようなパフォーマンス。最後はその日リリースされたばかりの「Bikini」をソロで披露。ステージ上のエリカは人々を魅了する女優だった。(最込舜一)






Photo by Kazma Kobayashi

Omar Apollo
17:30〈GREEN〉

苗場の景色に映える水色のセットアップを着用したオマー・アポロは伸びやかで艶やかな歌声とモダンなバンドアンサンブルでゆるやかに心地良いグルーヴを構築していった。公開されたばかりのMVをLEDビジョンに映しながら披露された「Drifting」で「come on!」とアジテーション。曲に込めた切なさを語りかけるような歌に昇華するだけでなく、全身を使ってミュージカルスターのごとく華麗な動きを見せながら珠玉のファルセットを響かせるとGREEN STAGEから感嘆の声が上がった。エレクトリックなバンドサウンドに合わせてフレディ・マーキュリーのような動きを見せた「How」の後、「一緒に歌って」と言って、「Invincible feat. Daniel Caeser」を披露。ラストは「Evergreen」。いくつもの声色を巧みに使い分けながら情感たっぷりに歌い上げ、オーディエンスの合唱を誘った。「we like music! Thank you amazing time!」と言って颯爽と去って行った。(小松香里)

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King Krule
18:30〈RED〉

実に10年ぶりの来日となったキング・クルールは個人的に初日のベストアクト。ポストダブステップ譲りのサイケな音響と官能的なサックスの音色を絡めながら、6人編成でジャズ〜ポストパンク〜ビートミュージックを横断するアンサンブルがまず素晴らしい。そして、ステージの中央でフラフラと揺れながらあの特徴的なしゃがれ声で歌い、シャウトをするアーチー・マーシャルの不穏な存在感がとにかく抜群だ。セットリストも新作から旧作まで満遍なく並ぶ満足度の高いもので、音源よりヘヴィな「Easy Easy」に圧倒され、“There’s a cat on the roof”という歌詞に倣ってオーディエンスが猫の鳴き真似を強制された「It’s All Soup Now」で爆笑。最後の「Out Getting Ribs」で一人スポットライトに照らされるアーチーの姿は、カリスマ以外の何者でもなかった。(金子厚武)





Awich
19:20〈GREEN〉

初日、GREEN STAGEのサブヘッドライナーはAwich。ライブ前、Awichは「今日のステージはNEXTレベルのAwichを披露します」とSNSにポストした。まずは「Queendom」で自らの出自を示し、「荊棘を抜け 今立つフジロック!!!」とAwichが叫ぶと大歓声が上がった。一挙手一投足から並々ならぬ気合が漲る。2019年のフジロックに愛娘と一緒にSIAを観に行った時の話をしたAwich。1997年の初回から欠かさず来場しているリカさんという車椅子のフジロッカーの方と出会い、「私はAwichという名前でラッパーをやっていて、いつかGREENに立ちたい」と伝えたという。リカさんは今は亡くなってしまったと明かした後、「リカさん見てますか? フジロックのGREENに立てました!」と力強く報告した。

山田健人が手がける映像を効果的に使った非常に作りこまれたライブ。「『ヘッドライナーがキャンセルになったから行かない』とか「『Awichにサブヘッドライナーは務まらない』」とか何もしてないのに文句ばっか言ってるヤツ、マジお前誰!?」というMCからの「WHORU?」。YENTOWNが結集しての「不幸中の幸い」、NENEとMaRiとLANAとの「BAD BITCH 美学」、JP THE WAVYとの「GILA GILA」、OZWorld、CHICO CARLITO、唾奇との「RASEN in OKINAWA」……すべてがハイライトだったが、とりわけ印象に残ったのは初披露された新曲2曲だ。より海外への視座を強く感じさせる曲であり、CHICO CARLITOとの「LONGINESS」を披露中に改めてグラミーというワードを口にしていたが、まさに本格的に世界に踏み出すための一歩となるNEXT Awichのステージであった。(小松香里)

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