フジロックがグラストンベリーに学んだ「フェスのあるべき姿」 アジカン後藤正文が花房浩一に訊く

後藤正文、グラストンベリー・フェスティバルの会場にて(Photo by Mitch Ikeda)

2023年のグラストンベリー・フェスティバルが6月21日~25日に渡って開催された。会場はイギリス南西部サマセット州にあるワーシー牧場。1100エーカー(東京ドーム95個分)もの広大な土地に約21万人の観客が訪れることから世界最大規模の野外フェスとして知られ、アークティック・モンキーズ、ガンズ・アンド・ローゼス、エルトン・ジョンがヘッドライナーを務めた今年は、わずか1時間でチケットが完売した。

フェスの歴史を辿ると、ワーシー牧場の持ち主であるマイケル・イーヴィスと、妻のジーン・イーヴィスが創設者となり1970年に初開催。当初は小規模なフリーコンサートだったが徐々に規模を拡大させ、1999年にジーンが亡くなると娘のエミリー・イーヴィスが共同主催者に。音楽のみならず演劇、ダンス、コメディ、サーカスから映画まで様々なアートが披露され、フジロックのモデルとなったことでも知られている。

そんなグラストンベリーを今年、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が取材で訪れた。彼は現地で何を思ったのか。そして、グラストンベリーはフジロックや日本の音楽文化にどのような影響を与えてきたのか。同フェスに40年以上通い続けるfujirockers.org主宰/音楽ジャーナリスト&写真家・花房浩一との対談をお届けする。
(開催2日目の6月22日・木曜にフェス会場で収録。聞き手:小熊俊哉、構成:岡本貴之)

※“Glastonbury”は発音的に「グラストンバリー」表記がより正確だが、本記事では日本での定着度を踏まえて「グラストンベリー」表記で統一した。

【写真ギャラリー】グラストンベリー・フェスティバル2023 現地撮り下ろし写真(全61点)


花房浩一と後藤正文、グラストンベリー・トーにて6月19日に撮影(Photo by Mitch Ikeda)


―まずは今回、後藤さんがなぜ花房さんと一緒にグラストンベリー・フェスへ行くことにしたのか訊かせてもらえますか。

後藤:花房さんと最初に出会ったのは国会前の反原発集会でしたよね。でも、それより前からミッチさん(mitch ikeda:オアシスやマニック・ストリート・プリーチャーズなどの写真で知られるフォトグラファー、アジカンとも親交が深い)に「グラストンベリーに行こうよ」と誘われてたんです。

花房:そうそう。ミッチがゴッチを連れて行きたいという話は聞いていて。ぼくもゴッチが何やってるかというのを情報では知っていたし、もう自分の仲間や友人だと思っていたんだよね(笑)。それで、たまたま最初に会ったのが国会前で。

後藤:2011年か12年ぐらいですね。


英サマセット州にある丘「グラストンベリー・トー」は観光名所やパワースポットとして有名。頂上には14世紀に建てられた旧聖ミカエル教会が立ち、丘の上から田園地帯の美しい光景を一望できる(Photo by Mitch Ikeda)


6月20日の午前中、会場でのキャンプに備えて買い物をする後藤。同日夕方から会場入りした(Photo by Mitch Ikeda)

花房:そのとき、ゴッチは自分のメディア(「THE FUTURE TIMES」)を作ったりしていて、真摯なファンが多いと思ったんだよね。グラストンベリーが長い歴史の中で培ってきたものは、社会をものすごく変えてきたわけですよ。だから、ゴッチにも実体験してもらったうえで、それを発信してもらえたら嬉しいなと思って。

ぼくはずっとグラストンベリーについて書いてきたけど、ある時からやめたわけ。どれだけ書いてもわかんない奴はわかんないし、現地に来てもわかんない奴はわかんない。

後藤:ははははは(笑)。

花房:でも、どっかで自分と同じような波長を持ってる人が見てくれたら、おそらく自分と同じような視点か、あるいは全く違うアングルから(グラストンベリーの魅力を)何か感じてくれるだろうし、ぼくも得るものがあるんじゃないかなって。








(上から)フェスの入場ゲート、会場に向かう観客、電光掲示板と男たち、キャンプエリアの向こうに広がる虹(Photo by Mitch Ikeda)

―後藤さんは実際にグラストンベリーに来てみていかがですか。

後藤:お客さんも本当にフェスのみならず、自分の人生を楽しんでいるような雰囲気を感じるし、働いている人たちも底抜けに楽しんでいるのが伝わってきますよね。

―我々は開催前日の火曜日(6月20日)に現地入りしたわけですが、夜は何千人ものスタッフが会場中で飲み交わしていて、みんな楽しみながらフェスを作っているんだなと。

後藤:そういう意味では、日本のフェスよりも関わっている人たちの関わり方が濃い感じがするっていうか。「私はただのワーカーです」みたいな感じの人が少ない感じはする。働きながら代わりばんこで楽しんでたりして、そういうのもすごくいいなと思いました。






盛り上がる観客たち(Photo by Mitch Ikeda)

―もちろん、アーティスト目線でも気になるフェスだったわけですよね?

後藤:うん。10代の頃からグラストンベリーはやっぱり夢っていうか、いつか出てみたいと思ってきたフェスだから。そこにこうやって、バンドを25年くらいやってきた後に来ることで、今だから見える景色もあるだろうなって。花房さんからも「“誰が出るから”とかじゃないんだよ」っていう話は事前に聞いていましたけど、会場を歩いてみて「なるほど」みたいな。まだフェス3日目で本番が始まってないのに、こんなに人がいてさ(笑)。

その話でいうと、昨日(6月21日)の丘の上からの風景は本当にマジカルでしたね。俯瞰でグラストンベリー・フェスが一望できるっていう。替えのきかない経験というか、ここに来ることに意味があるんだなって。デカいバンドをデカいステージで観るみたいなことよりも、あの丘であの景色を見ることに意味がある。あれは本当にすごいなって思いました。

花房:キーはそこにあると思うんですよ。ぼくはここに来ることで、ものすごく“自分になれる”んですよね。自分がジャーナリストだとか関係なくて、本来の「生きてることってこういうことなのかな」っていう感覚をすごく感じるんです。それが嬉しくて。




フェス初日の6月21日夕方に撮影。会場南端のエリア「THE PARK」後ろの丘は、会場全体を見渡すことができる人気スポット。夕日や夜景も美しい(Photo by Mitch Ikeda)

―あの風景は胸がいっぱいになりました。iPhoneで撮ってはみましたけど、スマホの写真では到底伝わらない感動があるというか。自分の目に焼き付けることに意味がある。

後藤:全然違いますよね。ぼくも撮ったそばから「違うな、カメラじゃ撮れない」って思いました。

花房:「これから何が起きるんだろう」と心待ちにしている、無数の人たちの想いが伝わってくるような感じ。あの感覚っていうのは、たぶん他のフェスティバルじゃありえない。フジロックの前夜祭は近いものがあるけどね。

あと、ぼくなんかの場合はもう何度も来てるから、毎回ここでしか会わない人がいるわけ。そういう人たちに会うと、名前を知らなくてもハグして「元気だった?」みたいな。自分の里に帰る、本来の自分の世界に戻ってこれる感覚がすごく好きなんだよね。


丘から遠くを見つめる後藤(Photo by Mitch Ikeda)

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