フジロックで奇跡を起こした「ワタル」が語る、ザ・キラーズとの共演秘話とこの先の人生

Wataruとザ・キラーズの記念撮影(写真は本人提供)

7月26日、21時半開演、フジロックの初日ヘッドライナーであるザ・キラーズのステージ。セットリスト中盤に差し掛かった頃、16歳の少年へ語りかける楽曲「boy」を歌い終えて、フロントマンであるブランドン・フラワーズはフロアにいるザ・キラーズのTシャツを着た青年と目を合わせた。「I like your shirt(君のTシャツいいね)」。そう言葉をかけてから、彼が「For Reasons Unknown」を知っているかどうかを確かめて、「Let him come up」とステージへ呼び込んだ。

ステージに上がった青年はブランドンと熱い握手を交わし、ブランドンからグリーンステージ前にいる何万人ものお客さんに向かって「Wataru from Tokyo!」と紹介された。その青年の正体は、16歳の頃にザ・キラーズに魅了されて日本から海外にまでライブを観にいくほどの大ファンである、現在24歳のWataru。ロニー・ヴァヌッチィ(Dr)のドラムセットに座ると、「For Reasons Unknown」をメンバーとともに演奏。最後まで細かいキメも含めて完璧で、ザ・キラーズからは笑顔が溢れ、オーディエンスも大いに盛り上がった。

スクリーンに映るWataruの表情は、終始、気迫に満ち溢れていた。「For Reasons Unknown」のドラムを自分が叩いてみせる、絶対に完璧なプレイでザ・キラーズと演奏してみせる、という想いをずっと前から持っていたのだろう。演奏後、冷静にポケットからスマホを取り出し、メンバーと自撮りするシーンを見て、きっと彼はこの瞬間を何度も想像していたのだろうとも思った。Wataruはこのために「CAN I DRUM!?」という看板を作り、目立つように電飾までつけて、最前列で待機していた。ただ「運を持っている」だけでなく、Wataruは、自分が掴みたいものに向かって、そのチャンスの確度を少しでも上げられるように自分ができることはすべてやる、努力の人だと思った。私は、その姿からもっとWataruのことを知りたくなった。

ドラムの叩き方、他の楽器とのグルーヴの作り方から、現役でバンドをやっているんじゃないかという予感を持った。その後SNSの情報で、彼はNapeというバンドを組んでいることがわかった。しかも、彼はドラムボーカルだった。配信されているのは1曲のみだが、その音楽性からは、UKロックへの深い愛と、日本で愛されるポップアーティストをまっすぐ目指していることを感じ取れた。

その日の深夜、私は「取材させてください」とXのタイムラインに放り込んだ。そのポストが、いつのまにかWataruの目に入った。そして翌日、なんと本人からメールが届いた。開封してみると、そこには丁寧な言葉が並んでいた。そうして取材が実現することとなった。

フジロックは終わったが、そこに参加した人たちの日々は当然その後も続いていく。Napeのドラムボーカル・Wataruのドラマも、この先へと続く。



「選んでもらえる」と確信した瞬間

―メールをくださって本当にありがとうございます。フジロックは3日間とも行かれていたんですか?

Wataru:こちらこそありがとうございます。金曜だけ行って、土曜の朝に新幹線に乗って帰りました。

―ザ・キラーズのステージでWataruさんがドラムを叩いたシーンは、私も現場で見ていて本当に感動しました。どんな気持ちであの日を迎えられましたか?

Wataru:ザ・キラーズの大ファンとして、フジロックの大トリという超重要イベントを必ず盛り上げなければならないという強い想いで臨みました。2年前くらいにLAまで行って彼らのライブを観たんですけど、その時、自分の前にいた学校の先生みたいな人が選ばれて演奏したんですね。それがすごくスリリングで。しかも上手かったので、すごく盛り上がったんです。それは他の国でもやっているパフォーマンスであることを知っていて、これを日本でやったら本人たちも喜んでくれるんじゃないかと思って。

―完璧なプレイをやって、演奏後に自分のスマホで写真を撮るところまで、きっと何度もイメトレをされて当日を迎えられたのだろうなと思いました。いつ頃から自分がザ・キラーズのステージに上がることを妄想されていたのでしょう。

Wataru:ザ・キラーズが発表される前はフジロックのチケットを買ってなかったので、ザ・キラーズが発表された1カ月ちょっと前(6月13日)にまず参加することを決めました。せっかくの来日公演で大舞台なので盛り上げたいなと考えた時に、自分にできることはドラムを叩くことなのかなと思って、発表された瞬間から構想を持っていました。ただ、ショーを私物化したり利用したりすることになるのではという強い葛藤もあったんです。でも友人や家族、X(Twitter)でのファンの方のお言葉に後押しされて、約2週間前から具体的な準備に取り掛かりました。


フジロック出演時のザ・キラーズ

―当日、ザ・キラーズのライブが始まってから「For Reasons Unknown」までは、どんな気持ちでしたか。

Wataru:ライトが落ちて暗くなった時は、もう本当に、腕がしびれるくらい緊張してました。「こんなに電飾とかもつけて準備したけど本当に選んでもらえるかな」「本番でミスったら嫌だな」とか、そういうことばかりが頭の中を巡ってました。1曲目の「Somebody Told Me」が終わって、2曲目辺りで電飾をつけるようにしたんですけど、すでにそこでブランドンがこっちを見てめっちゃニコニコしてくれていて、「これは絶対に気づかれてるな」と思って。

―そこから余計に緊張が込み上げてきませんか? 自分がステージへ上がることに現実味が帯びてくると――。

Wataru:ああ、でもそこからはあんまり緊張しなかったですね(笑)。「選んでもらえるな」と思ってしまったので、そこからはあんまり緊張しなかったです。

―実際に呼ばれた瞬間は――。

Wataru:もう「行くぞ」という感じでした。

―興奮と気迫が溢れた表情をされていましたよね。

Wataru:あとから自分で動画を見返すと、ブランドンにブチギレてるみたいな表情をしていたので、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。

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