Awichが語る、ジェイ・Zとの邂逅、コミュニティの底上げと自身の成長、フジロック出演

Awich Photo by Masato Yokoyama、Styling by Marie Higuchi (home agency)、Hair by Tomohiro Kogure (bloc japon)、Make-up by Akiko Sakamoto

ラッパー、Awich。2017年にリリースしたアルバム『8』をきっかけにその名は地元・沖縄を飛び越えて日本全国に轟いていった。リスナーは彼女のアティチュードや言葉一つ一つに心を揺さぶられ、マイクから放たれるラップそのものが放つエネルギーに取り憑かれるように魅了されていった。Awichが背負うステージは年を追うごとに大きなものになり、2022年には国内の女性ソロラッパーとしては初めての快挙となる日本武道館での単独公演まで漕ぎ着けた。そしてわずか1年後、「次に目指すのはアリーナ」と告げたAwichはKアリーナ公演を成功させる。2024年に入ると、全米最大規模の音楽フェスであるコーチェラ・フェスティバルにYOASOBIや新しい学校のリーダーズ、Number_iらと共に出演し、翌月にはニューヨークで開催された88risingが主催するフェス、Head In The Cloudsのステージも踏んだ。

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37歳のシングルマザー。夫は銃弾に倒れ、何度も暗闇を潜り抜けてきた。大きなステージに立ち、煌びやかな衣装をまとい、最新のLED照明を浴びるAwichの背後には、幾つもの語られるべきストーリーがある。彼女が潜り抜けてきたタフで個人的な経験たちは、そのままリスナーのストーリーとして大きな共感を呼び、国境を超えて幾人もの精神的支柱になっている。さらなる大きなストーリーを描こうとするAwich。海外で経験した出来事や個人の成長について、GREEN STAGEヘの出演を控えるフジロックへの意気込みについてなど、率直な思いを聞いた。

※この記事は現在発売中の「Rolling Stone Japan vol.28」に掲載されたものです。

ジェイ・Zとのディープな邂逅

ーこの間、息子と一緒にGREENROOM FESTIVAL ’24に行ったんですけど、小さな子供と一緒に来ているオーディエンスがすごく多くて。Awichさんの「Bad Bitch 美学」のイントロが流れた瞬間、それまで芝生の上で子供のお世話をしていたママたちが一斉にニョキニョキって立ち上がったんですよ。もちろん私自身もそうだけど、「この曲にパワーをもらっているママたちがこんなにいるんだ!」ってすごく嬉しくなりました。

Awich 本当ですか、ヤバい。それはすごく嬉しいですね。



ー最新アルバム『THE UNION』を引っ提げて全国7都市を廻ったツアー『THE UNION TOUR 2024』を終えられたばかりですが、その前後も海外を飛び回っていてかなりお忙しそうでした。

Awich ツアーの前にアメリカでのコーチェラの出演があったんですけど、さらにその前には、(3月に)来日していたジェイ・Zに会う機会があって。ジェイ・Zは相当パワーがある、歩く神社みたいな人。直接会って話した回数は少ないですけど、会ったことを振り返って改めて(ジェイ・Zの)本を読んだり音楽を聴いたりしたら、気づくことがめっちゃあったんですよ。

たとえば、東京で会った時は私とゆりやん(レトリィバァ)とジェイ・Zという「夢!?」みたいな3人で喋っていて。その時に、ゆりやんは拙い英語でジェイ・Zに対して「In our future, You are living.」って言ったんですよ。私は「ヤバい、ジェイ・Zは意味が分からないかもしれない」って思ってたら、ジェイ・Zが「That’s deep.」って答えたんです。その時思い出したのが、私はジェイ・Zの『Decoded』(2010年)という本を読んでいて、その中に「詩人(poets)とハスラーには共通点がある。単純明快な言葉の表現方法だけを使って話をするとキャリアが終わることがある。だからこそ俺たちの会話は謎かけみたいな内容になっているんだ」っていう文章があるんです。その時のゆりやんの言葉も謎かけみたいだったし、そのやりとりを見て「この人は本当に、本に書いていたような心意気で毎日生きているんだ」って思って。「何言ってんだこいつ?」っていうジャッジじゃなく、相手を受け止める度量があるし、物事に関してそれを深く考察しようと常にしているんだな、と感じたんです。

次の日、ジェイ・Zに再度1OAKのパーティーで会った時にそのことを伝えて、「感銘を受けました」と言ったら、また「It’s deep.」と言ってくれて(笑)。そのあと私が「グラミーを獲りたい」って話をしたら、「大丈夫、獲れる。You got it」と答えてくれたんです。

ー実際にジェイ・Zと言葉を交わして、Awichさんにも彼のパワーが宿ったような。

Awich そうなんです。そういう会話しかしていないけど、その時の今まで積み上げてきた私の彼に対する尊敬の気持ちもあったし、本を読んでずっと憧れてきた「(彼のことを)知りたい」という気持ちを募らせてきたんです。だから、会っただけで爆発するぐらい想いを伝えることができた。彼は本当に、ちゃんとヘッズやヒップホップのキッズのことを考えてくれていると思う。最終的に、曲さえ売れればいいはずなのに、『Decoded』は本当にすごい本だし、わざわざ書いて私たちに教えてくれている。昨年はブルックリンの公立図書館で『The Book of HOV』というエキシビジョンも開催していたんですけど、展示の内容は全部オンラインで観れるようになっていたんですよ。



ー展示品の写真に加えて、解説のテキストも丁寧に全て公開されていました。

Awich そう、オーディオブックまで公開していて。そんなことまでしなくてもいいのに、全てカルチャーのためにやっているんですよ。そういうところも“歩く神社”みたいだし、ジェイ・Zがこれまでに積み重ねてきたこと自体が、彼をそういうパワーハウスにしていて。それに触れた瞬間にビリビリ!って感電するようなことが絶対に起こったんですよね、私の中で。そのパワーをもらってコーチェラにも出演したし、日本に帰ってきてツアーが始まる時にも意気込みました。

私はいつも、ライブが始まる前に一瞬瞑想をして、先祖やライブをする土地のスピリットに対して自己紹介して、お願いを伝えるんです。「私はこういう者で、今日はここにお邪魔します。今後、お見知り置きをお願いします」みたいに。今回のツアーの最中、そうやって瞑想している時に「もうお前は宇宙に登録されているから」って言われたんです。スピっていると思われるし、書き方が難しいかもしれないけど(笑)。「自我を消して、宇宙が人間に伝えないといけないメッセージを通すだけだ」って伝わってきた。だから、「分かりました。無我の境地に行きます」と思ったんです。これが起こったのが福岡公演の時でした(5月9日)。実際にステージに立つと「うわあ!」って圧倒されて、「これがゾーンに入るってことなんだ」と実感したんです。エゴとか自我を取り除けば、自分がかっこよく見られるかとか、今日のメイクとか衣装とかを気にすることってまじでどうでもいいなって。


Photo by Masato Yokoyama

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