SANTAWORLDVIEWが語る、「SANTA」というユニークさの源泉、ヒップホップの無限性

SANTAWORLDVIEW(Photo by 24young)

SANTAWORLDVIEWが、三作目となるアルバム「NICE TO KNEE YOU」をリリースした。昨今の国内ヒップホップを彩る多様な音楽性をさらに拡大していくような、渾身の力作だ。アニメ『カウボーイビバップ』の楽曲をアレンジした2曲に始まり、随所で花を添えるサンプリング、ジャズやロックの要素——それらを飲み込みながらまとめ上げるプロデュース力がすばらしい。背景には、自身でビートメイクをするようになったことや、哲学・神秘学への傾倒があるよう。「BOUNCE」でLeon Fanourakisとともにシーンの最前線に現れてから5年、SANTAWORLDVIEWはユニークな変化を遂げようとしている。「自分がやってることは絶対に今の世の中に必要なことだと思う。確実に必要。俺の魂がそう言ってる」と熱く語る彼の話に、耳を傾けてみよう。

―『NICE TO KNEE YOU』、すごく良いアルバムですね。楽しくて、でも渋さもある面白い作品だなと思いました。このタイトルはどうやって決まったんですか?

アルバムタイトルは、最後に決めました。ヒップホップをやっていく上で初心に返るということと、自分はよくガヤで「KNEE(ニー)」って使うので、それを組み合わせた造語ですね。

―なぜこのタイミングで初心に返るという意識になったんでしょう。

ひとつは25歳ということで、節目だなと。これまではアッパー系の曲、いわゆるクラブでも聴けるものが多かった。大きかったのは、自分でビートメイクをやるようになったんですよ。そうなると、ラップだけではなくビートに対するこだわりも強くなってきた。段々、自分が伝えたいことや残しておきたい歌詞というのがトラップ系のビートに合わなくなったんですね。ブーンバップ系のビートの方が文字量も込められるし、やっぱりクラシックなアルバムを残したいなと思ってきて。

―今作のリリックを聴いていると、確かに、トラップ系のビートに乗るイメージがあまりつかないですね。もうちょっと深遠な、俯瞰した視点が強くなってきた印象です。

「BOUNCE」をリリースして以降、俺ほんとにこんな歌詞のままでいいのかなと思うことが多くなった。今、世の中がすごく混乱してるし、そんな時に「楽しくいこうぜ!」ってことを歌ってもいいけど、それはもうやりすぎた感があるというか。『XEONWORLDVIEW』とか他の人と作るEPと違って、自分のアルバムではもっと自分を突き詰めていきたい。実際、社会の状況ってもう笑えないところまで来てるじゃないですか。そんな時に、自分はポーカーフェイスを貫くんじゃなくて言いたいことを言おうって思ったんです。でも自分は人前でラップできるような教養もないし、色んなアンテナを張って学んでいく中で、一番ハマったのが哲学や神秘学だった。



―「Arrivederci」では「フロイトは言った人の欲動 タナトスとエロス」というラインがありますね。同様に、「成せば成る」でも「人を動かすエロスとタナトス」と歌っています。

フロイトはかなり影響を受けました。アインシュタインとの手紙のやりとりをまとめた『人はなぜ戦争するのか』という本があるんですけど、フロイトが「人間には欲望の前に欲動というものがある」と言ってるんです。そこでは、生への欲動であるエロスと死への欲動であるタナトスという概念を使いながら、原始人が敵と味方をエロスとタナトスによって判別していたこと、仲間意識をどうやって形成していたことなどが説明されます。他に、感情のアンビバレンツという考え方とかもけっこう共感して。自分ももちろん全部は理解できていないですけど、すごく納得することを言ってるし、単純にかっけーなって思う(笑)。



―その「Arrivederci」では、「俺自身過信してしていた時期もあったし 正気を保ちながら狂気の狭間ん中で自分と対峙」というリリックもあります。今作では、自分に自信を持とうという部分と、悩んで夜も眠れないという部分が混在していて、SANTAWORLDVIEWというラッパーが分裂しているような印象も受けました。

それは本当にその通りで、アーティストって病む人多いじゃないですか。陰と陽は常にありますね。二面性が両方ある。そのあたりも哲学に救われているところがあります。でも基本的にはね、やっぱり飯食おうってことですよ。美味い焼肉食おうよっていう、それが一番です(笑)。

―そこはシンプルなんですね(笑)。

俺も哲学は好きですけど、最後はそうですよ。そこを難しくすると、もっと泥沼にハマっちゃうから。「何言ってんだよコイツ、こっちは落ちてるんだよ」ってなるじゃないですか。本当に悩んでどうしようもなかったら、「じゃあ焼肉食いにいこっか!」「行く行く!」って、それが全てです。

―めっちゃ良いですね。そこがSANTAさんのバランスの良さというか、深くいくところと、軽やかなところがこのアルバムにも出ていると思います。

だって、フロイトの本とか難しいんですよ。お前頭いいんだから、小学生にも分かるように書けよって思う(笑)。自分が歌詞を書いていても、深いことを伝えつつも、基本的には分かりやすいメッセージで伝えるようには意識しています。

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