歯を彩る奇抜なジュエリー「グリルズ」最前線 米

より煌びやかに、よりワイルドになってグリルズが復活(©ファニータ・カレ )

グリルズが主流になった80~90年代、独創性と派手さを極めた極上品をゲットできる場所があった。人々はニューヨーク州クイーンズまで足を運び、グリルズの祖と呼ばれるエディ・プレインのもとを訪ねた。スリナム系移民だった彼は人気急上昇のトレンドに飛びつき、音楽業界のトップジュエラーとなった。80年代後半からグリルズの成長を記録してきた映画監督兼作家のライル・リンドグレン氏は、「エディはいわばキング・オブ・ニューヨークだ」とハック誌に語っている。

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ラッパーJust-Iceのために作った1セットがアルバム『Kook & Deadly』のアートワークに登場すると、プレイン氏の名前が知れ渡り、たちまち家族経営の店の前にはグリルズを買い求めるラッパーたちが長蛇の列をなした。「急に若者たちは目にしたものを真似しはじめ、ラッパーたちもみな――フレイヴァー・フレイヴやクール・G・ラップやジェイ・Zなど――流行に乗り遅れまいと彼のもとにやって来た」と、リンドグレン氏はハック誌とのインタビューで語った。だがプレイン氏でさえも、現代のグリルズ製作者には舌を巻くことだろう。デジタル時代で作品が市場に出回るようになった今、製作者も世界のあちこちに存在している。

グリルズ復活の理由もそこにある。リル・ナズ・Xやエイサップ・ロッキーが新作ビデオで着用し、ロバート・パティンソンが特注品をつけて雑誌の表紙を飾り、流行りものは決して見逃さないマドンナも、『トゥナイト・ショウ』で自前のグリルズを披露した。

日本のヒップホップシーンの中心地から太陽が降り注ぐロサンゼルスまで、引く手あまたのジュエラーたちを紹介しよう。みな常識を覆し、ひと昔前には想像もつかなかったような作品を作り上げる面々だ。

1. 秋山哲哉
場所:日本、東京
顧客:エイサップ・ロッキー、YZERR、ゆるふわギャング、SWAY、スティーヴ・レイシー


©秋山哲哉

東京都北部の台東区の中心に、今もっとも尊敬を集めるジュエラーの1人、秋山哲哉氏がいる。かれこれ20年近く日本の名だたるアーティストのために腕を振るってきた人物だ。今や著名なジュエラーだが、同氏が音楽業界に欠かせない存在になったのは、2011年にVLONEを立ち上げたデザイナーのエイサップ・バリがInstagramのDMでカスタマイズを依頼したのがきっかけだった。白地に青の陶器製の被せ物は斬新で、花と竜を描いた中国の景徳鎮のようだった。型にはまることなく、グリルズの可能性に挑戦し続けるデザインで、秋山氏のファンは一夜にして世界各地に広がった。2020年の終わりごろに受けた依頼が、秋山氏の作品を世界的に広めることになる。ハーレムが誇るエイサップ・ロッキーの特注グリルズだ。ピンクダイヤモンドとイエローライヤモンドを埋め込み、その隣には樹脂の花。他のどのグリルズとも違う、現代と伝統が融合した作品だ。「花のデザインのサンプルを作って彼に見せたら、とても気に入ってくれた」と言って、秋山氏はこう続けた。「僕にとって、彼は気品とストリート性を兼ね備えたアーティストだ」 まさに世界的巨匠らしい一品だ。

Translated by Akiko Kato

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