フォンテインズD.C.のグリアンが語る、ディストピア化した孤独社会でロマンスを探求する理由

Photo by Simon Wheatley

 
フォンテインズD.C.(Fontaines D.C.)がこんなに劇的な変貌を遂げるとは一体誰が予想していただろうか? 過去三作では基本的に鋭利なポストパンクを基盤にしていたアイルランド出身の5人組は、通算4作目となるニューアルバム『Romance』でKornやニルヴァーナに肉薄するようなスケールの大きなサウンドへと手を伸ばしている。これぞ新時代のスタジアムロック――この野心に満ちたアルバムを聴くと、そんな大袈裟な言葉を勢いあまって振りかざしたくなる。

無論、前作『Skinty Fia』の時点でソングライティングはよりポップになり、新作の重要な構成要素のひとつであるシューゲイザー的なギターサウンドも導入されるなど、変化の兆しは見え始めていた。だが、わずかアルバム一枚の間で、ここまで一気に音のスケールが押し上げられるとは思いも寄らなかった。Korn「Freak On a Leash」を下敷きにしたと思しき「Starburster」のような曲だけでなく、「Favourite」のようにジャングリーなギターポップでさえ、これまでとは比較にならないほどビッグなサウンド。曲調によるブレがなく、アルバムを通して一貫してスケールが大きな音が鳴っていることに彼らの抜本的な進化を感じる。今年のフジロックで彼らのライブを観た人は、それを思い出してみればいい。新曲はもちろんのこと、過去三作の曲も音源より格段にスケールアップしていたのは、バンド自身の変化、そして彼らが目指している方向性の変化の表れだろう。

また、今回の変化を語る上で、過去三作を手掛けたダン・キャリーに代わり、ジェームス・フォードをプロデューサーに迎えて緻密なスタジオワークに取り組んだという事実も避けて通れない。CRACK Magazineで明かされていたように、生ドラムで敢えてドラムマシーンのサウンドを模したり、ニルヴァーナ『Nevermind』を参考にギターやベースを何層にも重ねてビッグで分厚いサウンドを実現したり、様々なスタジオでの実験を彼らは積み重ねてきた。その成果が『Romance』での飛躍的な進化の背景にはある。

そして変わったのは音だけではない。これまでの3枚のアルバムは何らかの形でアイルランド人としてのアイデンティティを巡る問題を取り扱っていた。しかし彼ら曰く、今回のアルバムは「もっともアイルランド的ではない」作品。代わりにテーマの中心となっているのは、アルバムタイトルにも掲げられている“ロマンス”だ。このロマンスが何を意味するのかは、以下のインタビューで確かめてもらいたい。ただひとつ言えるのは、『Romance』とは、ますます苛酷さを増し、ディストピアのようになっていく今の時代に生まれるべくして生まれた作品だということだ。

今回の取材は、フジロック開催前日に東京にておこなわれた。グリアン・チャッテン(Vo)はまだ日本に着いて間もなく、時差ボケの疲れも抜け切っていないようだったが、一つひとつの質問に真摯に応えてくれた。


2024年7月28日、フジロック出演時のグリアン・チャッテン(Photo by Kazma Kobayashi)


アークティックとKornから受け取ったもの

―日本に着いたばかりですよね。疲れていませんか?

グリアン:そうだね、あんまり寝ていないんだ。

―そんなところすみませんが、始めさせてもらいますね。

グリアン:問題ないよ。

―『Romance』は新時代のスタジアムロックと呼んでいいような、とてもスケールが大きく、壮大なサウンドです。レディオヘッドで言えば『OK Computer』、アークティック・モンキーズで言えば『AM』に当たるような、バンドの劇的な進化の瞬間を刻んだ作品だと感じます。あなた自身はこのアルバムをどのように捉えていますか?

グリアン:『AM』や『OK Computer』っていうのは、僕が目指し得る限り最高のスタジアムロックで、まさにクリエイティブの産物だよ。だから、それってすごく嬉しい褒め言葉だね。このアルバムには、ビッグなサウンドでの表現に値するようなエモーションが詰まっていると思う。このレコードのテーマっていうのも、僕にとっては壮大なものなんだ。だから、それには壮大なサウンドが相応しいっていう。




フジロック出演時のフォンテインズD.C.(Photo by Kazma Kobayashi)

The Guardianのインタビューでは、今回のような壮大なサウンドを目指したインスピレーションのひとつとして、アークティック・モンキーズのUSツアーでサポートアクトを務めた経験が語られています。具体的にどのようにその体験に感化されたのか、教えてください。


グリアン:一番インスパイアされたのは、彼らがものすごい成功を収めながらも、自分たちに正直であり続けているっていうこと。アレックス・ターナーは好奇心旺盛な人で、もしかしたらこれまで以上にソングライターとして好奇心旺盛なのかもしれない。彼にはすごくインスパイアされたよ。それに彼らって謙虚でさ。すごく腰が低くて控えめで、今でもシェフィールドボーイズって感じで、シェフィールドにいた頃のマインドを忘れていない。僕も彼らのように自分のダブリンらしさ、アイルランドらしさを忘れたくないと思った。そういったことかな。

―つまり、彼らのサポートとして大会場で演奏した経験に感化されたというよりも、アークティック・モンキーズというバンドの在り方自体に感化されたということ?

グリアン:そう。大きな会場を経験しているにも関わらず、自分たちに忠実であり続けているところだね。



―今回のアルバムではKornの影響があったことも既に語られていますよね。そもそもKornとはあなたにとってどのような存在だったのでしょうか?

グリアン:子供の頃に彼らのCDを買ったんだ。ただ当時は、なんか怖くてね。彼らのレコードっておっかない感じがするだろ? でも、僕はずっと彼らのファンタジーの要素にも惹かれていて。Kornみたいなバンドって、ザ・キュアーと同じくらいファンタジーの要素を持っていると思うんだ。そうだな……Kornとザ・キュアーは同じスペクトラム上にいて、最終的な着地点が違うだけっていうか。それに、確か彼らって、MTVのアンプラグドセッションで一緒にプレイしていたよね?

―ええ。そこでKornのジョナサン・デイヴィスは、ザ・キュアーが自分の高校時代のサウンドトラックだったと語っていたと思います。

グリアン:僕がKornを好きなのは、彼らは明らかにマスキュリンなエネルギーを持っているんだけど、フロントマンのジョナサンにはすごくフェミニンなところがあって、脆さ、傷つきやすさもあるっていう。それらを融合させているところに、すごくインスパイアされるんだ。




―このタイミングでKornに立ち返るきっかけみたいなものは、何かあったんでしょうか?

グリアン:ステージに上がる前は、いつもKornの曲を聴いていたんだ。彼らにはすごく錯乱したエネルギーがあって、それが唯一、ライブ前の僕たちのアドレナリンのレベルにマッチするものだって感じられたから。そうやってKornにハマっていったんだよ。

―それって、最近はライブ前にKornをよく聴くようになったということ? それとも昔から?

グリアン:一年半前くらいかな。ヨーロッパツアーのときに聴いていたんだ。ひとつ前のアルバム『Skinty Fia』を出して、ツアーをやっていた頃だね。ヒップホップもよく聴いていたけど、ステージに上がる前はだいたいKornを聴いていたよ。

Translated by Emi Aoki, Natsumi Ueda

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE