壷阪健登が語る、若きジャズピアニストの半生と瑞々しい表現の本質

即興のなかにも寛いだメロディを

―バークリーの頃の話を聞いていると、壷阪さんは作曲への関心が強かったんですね。一方で、「即興」の面ではどんな人を研究してきましたか?

壷阪:オーネット・コールマンはずっと好きです。いわゆるフリージャズを演奏するのにおいても僕の考えはドミソとか、コーダルなインのものの拡大にフリー(=アウト)がある。そこ(イン)があるから、その先(アウト)がある。

例えば、僕がリー・コニッツが好きなのは、若い頃にハーモニーの際(きわ)を細かいビバップの言語として演奏していたけど、晩年はそれはどんどん歌になっていく。僕はそういった本当のインプロバイザーとしてのコニッツを尊敬しています。コニッツと同じようなところがオーネットのソロにもあると思う。その歌に音楽としての喜びがあると思うんです。僕からするとポール・ブレイにもそういった要素を感じるし、プーさんにもそういう要素を感じるんですよね。

―オーネットにはキャッチーな曲があるし、だからこそけっこうカバーをされるタイプの作曲家でもありますよね。壺阪さんが特に好きなオーネットの曲は?

壷阪:「Ramblin’」は好きですよね。あと、トリオでやってる『At the Golden Circle』は全部好きです。僕の曲の「こどもの樹」や「暮らす喜び」はフリーでインプロビゼーションなんだけど、どこかくつろいだところがあると思います。僕はそういうのが好きですね。



―リー・コニッツだったら、どれが好きですか?

壷阪:『Motion』が一番好きです。でも、意外とあの前後って録音がないんですよね。インタビューを読むとコニッツは「その頃は仕事がなかったんだ」と言っていて、もうちょっとその辺りを聴きたかったなと思います。そこから急に変わるんですよね。その後、リーはいろんな人と共演しだしたんですけど。



―晩年はどうですか?

壷阪:晩年はもう素晴らしいですよ。ボストンに来たのでライブも聴けました。僕がニューヨークのDizzy'sでパティトゥッチのグループに参加したときに、楽屋におじいちゃんが入ってきて、「今日は君たちが演奏するのかい?」と。「おじいちゃん、ここじゃないですよ」って言おうと思ったらそれがリー・コニッツだったことがありました(笑)。2セット聴いて帰ってくれましたけど、すごくいい人でしたね。そのときなぜか「早く結婚しろ」って言われました(笑)。

話が逸れましたけど、僕にとってのリー・コニッツの魅力はメロディのバリエーションなんですよ。彼にはメロディがある。オーネットもインプロバイズしながらコード的にはどこかへ行ってるのかもしれないんですけど、その瞬間も何らかの「曲」を演奏しているように僕は感じるんです。そこが2人の好きなところですね。

―では、ポール・ブレイはどうですか?

壷阪:ありきたりな答えですけど、ソニー・ロリンズとコールマン・ホーキンスの「All The Things You Are」(『Sonny Meets Hawk』収録)。あれはマスターピースですよね。やっぱり僕の関心はインとアウトなんです。ポール・ブレイのソロもインがあって、その拡大にあのラインがあるわけで、でたらめでは全くない。『Footloose!』など、初期はそれが顕著に出ていると思っています。



―『Footloose!』はビバップのフォーマットなんだけど、その中で違うことをやっていてすごいですよね。

壷阪:ポール・ブレイもチャーリー・パーカーと演奏していた人ですけど、彼は何か違う見方をしたんだろうなと思います。

―ちなみに話は変わりますが、バークリー卒業後もしばらくアメリカにいたんでしたっけ?

壷阪:2019年の12月にバークリーを卒業して、そこからOPT(Optional Practical Training: 米国で研究分野の雇用を探す予定の留学生が利用できる12カ月の就労許可)で働き始めたんです。卒業後もたまたま縁があって、ミゲル・ゼノンのバートランドで演奏したりしていました。そのときドラムはロニ・カスピだったりして、「なんか幸先いいかな」と思っていたら、ボストンに戻る帰りの電車でニューヨークのロックダウンが告げられたんです。

―日本に帰ってきてからはどんなところで演奏していたんですか?

壷阪:いわゆる、シーンのジャズ箱で演奏してました。レコーディングとして形になったのは中村海斗や浅利史花さん。同世代とばっかりですね。




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