Puma Blueが語る静寂の美学、ダークでメランコリックな音楽表現の源

Photo by Kazumichi Kokei

プーマ・ブルー(Puma Blue)は突然現れた。2017年ごろに『Swum Baby EP』が静かに話題になっていったが、実に独特で、不思議な音楽だった。おぼろげに浮かんでいるようなサウンドに、ささやくように歌う声、全ての音は今にも消え入りそうに揺らめいている。その音楽は暗くて、退廃的。でも、セクシーであり、とてつもなくエモーショナルだった。DIYなやり方で制作しているのは明らかで、理想的なインディペンデント音楽であるように思えた。

しかし、同時に彼のバンドにはUKのジャズトリオVels Trioのメンバーも在籍していたこともあり、どこかパンク的なマインドさえも感じられる衝動的なサウンドであるにもかかわらず、演奏面では洗練されている部分も感じられた。実はブリット・スクールで音楽を学んでいたという話もある。粗削りであり、洗練されてもいる。エモーショナルだが、その音楽は全てがコントロールされていて、そのディテールに至るまで、プーマ・ブルーの美意識に貫かれていて、完璧にデザインされているとも思えた。ここまで不思議なバランスで成り立っている音楽はなかなか聴けるものではない。

その後、2019年のEP『Blood Loss』、2021年のデビュー・アルバム『In Praise Of Shadows』と、最初期のサウンドから少しずつディテールを変えながらも、プーマ・ブルーらしさは失わないまま、地道に、ゆっくりと自身の音楽をブラッシュアップしてきた。その成果は2023年の2ndアルバム『Holy Waters』に結実している。独特の情感や世界観はそのままに、すべての面でレベルアップしているのは誰の目にも明らかだった。

そんなプーマ・ブルーことジェイコブ・アレンが3月に来日。全公演ソールドアウトで大成功を収めたツアーの合間に取材の時間をもらうことができた。ライブでのシリアスな表情とは違い、やさしい表情とやわらかい声でこちらを気遣いながら話してくれるジェントルな人だった。音楽の影響源については楽しそうに、自分の哲学や美意識の話になるとゆっくり考えながら、真剣に話してくれた。声量こそ小さめだが、その語り口には自信と確信がはっきりと含まれていた。プーマ・ブルーのようなアーティストに使う言葉としてはふさわしくないかもしれないが、清々しささえ感じたインタビューだった。




2024年3月26日、東京・WWW Xにて(Photo by Kazumichi Kokei)

―昨日のライブ、すばらしかったです!

プーマ・ブルー(以下、PB):すごく楽しかったよ!

―日本のファンは静かだとよく言われますが、実際どうですか? あなたがそれを喜んでいるような印象を受けたので。

PB:静寂の意味を体験できた気がする。東京のようなオーディエンスが静かな場所だと、音のあいだに「間」が生まれて、想像力のスペースを持つことができたんだ。

―よかったです。まず最初に、ティーンエイジャーの頃はどのような音楽に夢中だったんでしょうか?

PB:レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ニルヴァーナにレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン……ヘヴィな音楽が好きだった。それから、エヴァ・キャシディ、ポリス、スティーヴィー・ワンダーにビートルズ。まあ、ビートルズはみんな好きだよね。

―真っ先にレッチリが出ましたが、どんなところが好きだったんですか?

PB:自由でエネルギーに満ちているところ。ある頃までは、心に語りかけるような音楽ばかり聴いていたけれど、彼らはワイルドで自由でグルーヴィー。その乱雑さに惹かれたんだ。

―それは何歳ごろの話ですか?

PB:たしか、9歳くらいかな。

―今の音楽性から考えると、レッチリよりジョン・フルシアンテのソロのほうが好きそうですよね?

PB:ああ。大きくなるにつれて、ジョン・フルシアンテの音楽に惹かれていったよ。彼の音楽は時間をかけて良さがわかるっていうのかな。彼のハーモニーやコードって馴染みやすいけれど、アプローチは独特なんだ。例えば、子供の頃はお茶のおいしさが分からないけれど、大人になるにつれて良さがわかってくる。ジョン・フルシアンテの音楽はそんな感じ。レッド・ホット・チリ・ペッパーズは、ミルクシェイクだね(笑)。



―なるほど(笑)。あと、エヴァ・キャシディ(90年代に活躍したアメリカのSSW。1996年に癌で死去)の名前が出ました。日本ではそれほど知られていないアーティストです。彼女のどういうところが好きなんでしょうか?

PB:たしかに、彼女はそこまで知られていないアーティストだね。両親がよく車で「Fields of Gold」「Somewhere」や「Over The Rainbow」をかけていたんだ。それで、彼女の美しい声とギターアレンジメントに夢中になった。



―最初に夢中になった楽器は、やはりギターだったのでしょうか?

PB:最初はドラムだった。7歳の頃かな。チャド・スミスにずっと憧れていたから。それから、エリオット・スミス、ジョン・フルシアンテの音楽に出会って、ギターを弾いてみたんだ。レッスンを受けたわけじゃないし、ただ曲を書き始めた。それが日本でライブをしているなんて信じられない、きっと何かのアクシデントだ! いつかドラムに戻るべきかもね(笑)。

―(笑)エリオット・スミスのどんなところに惹かれたんですか?

PB:彼の音楽には優しさと暗さがあって、そこに(自分との)類似性を感じる。すごくおもしろいギタープレイヤーだよね。簡単そうに聴こえるけれど、いざ弾いてみるとかなりややこしくて一筋縄ではいかない。どうやってギターパートを書いたのか想像できない。あと、心に響くささやくような声が好きなんだ。

―さっき名前を出した人以外でとくに影響を受けたソングライターはいますか?

PB:それは100パーセント、ジェフ・バックリィ。自由で柔軟で、美しい声。彼の音楽にはギミックがなく、彼の心そのもの。あとは、さっきも挙げたけれどエリオット・スミス。暗さ、優しさ、抱擁を抱かせる音楽。それに複雑なギターパート。彼は決して目立たせるためじゃなく、なにかを証明しようとしていたんだと思う。

―ジェフ・バックリィはどういう経緯で知ったんですか?

PB:15〜16歳の頃、音楽のテスト課題で彼の曲を知ったんだ。それがジェフ・バックリィの「Grace」だった。今までに聴いたことのない音楽だったよ。その夜、家に帰ってネット検索で出てきた曲はすべて聴いた。その週末には、バイトで貯めたお金でアルバムを買いに行ったな。そのアルバムは今でも持っていて、どこかに眠っているはず。



―エリオット・スミスやジェフ・バックリィは、繊細でナイーヴな人柄でも知られていますが、彼らのパーソナリティにも共感する部分はあるのでしょうか?

PB:そうだと思う。僕はすごくセンシティブなのかもしれない。シャイっていうわけではないんだけれど、静かなんだ。考え込むことが多いし、どの映画を観ても感動して泣いたり…… とくに飛行機では。まあ、それは気圧のせいだね(笑)。エリオット・スミスとジェフ・バックリィは臆病でもシャイでもない。彼らは繊細で優しくあり、確固たるものを持っている。僕もそうなりたいと思っている。

―さっきから暗さ(darkness)という言葉を多く使われていますが、そういった要素を感じさせる音楽性で好きなアーティストはいますか?

PB:そうだな……ブリアルは大ファンだよ。彼はすごく独特で、陰鬱なサウンドから刺激をもらっている。あとは誰だろう……そうだ、デフトーンズ。ヘヴィで、僕の音楽よりロックだね。ときどきアトナールで、不調和音で、突然音楽の向かう先を変えていくようなチノ・モレノのボーカル、それがダークなサウンドを生んでいる。歌っている内容もそう。あとは……ラフマニノフも大好きだよ。これも暗いね(笑)。彼はかなりロシアっていう感じ。


プーマ・ブルー来日公演の開演前SEで流れていたデフトーンズ「Teenager」

Translated by Ayako Takezawa, Natsumi Ueda

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE