Puma Blueが語る静寂の美学、ダークでメランコリックな音楽表現の源

静かな声を見つけるまで

―次は歌唱面について聞かせてください。とくに研究したボーカリストはいますか?

PB:間違いなくジェフ・バックリィ。それからビリー・ホリデイ、ニーナ・シモンに、ある面ではディアンジェロも。彼は、僕が到達できない声域を持っている。彼のアプローチには影響を受けたよ。

―ビリー・ホリデイは、どんなところが?

PB:彼女の声が持つ温かさ。それから、フレージングに抑揚があるところ。まるで会話のように感じる。ラフなところも好きだな。



―あなたの歌い方ってすごく特殊ですよね。小さい声だけれど、すごくエモーショナルだと思います。そういった歌い方をどうやって開発していったんでしょうか?

PB:そうだな……きっと自宅のベッドルームで歌うことが多かったからかもしれない。静かにしなきゃダメだから。近所やルームメイト、家族にも迷惑をかけられないからね(笑)。

―(笑)。

PB:それがソフトに歌い始めた始まりだと思う。あとはそうだな…… エヴァ・キャシディやビョーク、ポーティスヘッドを聴くようになって、ハイトーンボイスがいいなと思うようになったんだ。自分でやったらどうなるだろう?と思って、男性じゃなく女性シンガーを参考にするようになった。ハイトーンには脆さがあるから、繊細な感情を表現するのにはぴったりだと思ったんだ。

―へぇ。それってもともとの声質もあって素直にやっている部分もあります?

PB:そうかもしれない。いつもこんな感じなんだ。友達には、寝る前に僕の声を聞きたいと言われたことがあるよ。

―(笑)。

PB:叫ぶのはきらいなんだ。嫌な気分になるからさ。

―例えば、静かでメランコリックな感情が乗っている音楽といえば、ボサノヴァなどがあると思うんですが。

PB:ジョアン・ジルベルトは好きだね。美しくて、ソフトで、ロマンティックだ。



―影響を受けたアーティストをたくさん挙げてもらいましたが、その中にジャズミュージシャンの名前がいくつかありました。あなた自身はジャズの影響を受けていると思いますか?

PB:ああ。ライブはインプロヴィゼーションが多いし、スタジオでもそう。ジャズから盗んだコードもある。ムードやカラーを作りあげていけるところが好きなんだ。それは、僕が音楽でやろうとしていることでもあるから。

―とくによく聴いているジャズをあげるとすると?

PB:ウェイン・ショーターにビル・エヴァンス、テナーサックス奏者のドン・バイアスも。あとは誰だろう……エリック・ドルフィーも好きだな。もちろん、マイルス・デイヴィスも。当たり前だけど最高だよね。

―ウェイン・ショーターが好きだということは、すごく想像がつきます。どういったところが好きなんですか?

PB:メロディかな。予測できないし、かなり変わってるよね。

―きっと彼のミステリアスなところもお好きなんですよね?

PB:ああ、そのとおり。

―お気に入りのアルバムは?

PB:『Speak No Evil』に収録されている「Dance Cadaverous」。このアルバムはお気に入り。「Infant Eyes」や「Witch Hunt」も好きな曲だよ。



―ビル・エヴァンスはどういったところが好きですか?

PB:もっともクラシックに近いジャズミュージックをやっているところ。彼は天才ピアニストで、速弾きというよりは、コードがすばらしい。あとは、さっきも言ったとおり、すごくロマンティックでメランコリーな演奏だよね。

―お気に入りは?

PB:難しいな……ジム・ホールとのアルバム『Undercurrent』かな。その中に入っているカバー曲「Darn That Dream」はすごくいい曲。オリジナルのビリー・ホリデイも聴いたけれど、僕はこのカバーの方が好きだった。



―プーマ・ブルーの音楽はプロダクションも素晴らしいですよね。不思議な世界観をプロダクションで生み出していると思います。その点について、とくに影響を受けた人はいますか?

PB:ポーティスヘッドは重要だね。それから、ブリアル、レディオヘッド。レディオヘッドの音楽体験の影響は大きくて、「これはギターの音だ」って明らかな場合もあるけれど、どの楽器の音かまったく判別できないことがある。これは、僕が音楽をプロデュースするうえで念頭に置いていることでもあるんだ。あとは、J・ディラ。スムースでありつつ、エッジがあるところ。

―ポーティスヘッドのどういうところが好きですか?

PB:ライブとサンプルの区別がまったく判断できないところ。脳内で正解当てゲームをしてるみたいで、ワクワクする。最終的に答えは出ないけれど。それに、心に刺さるボーカル。ドラムサウンドもすばらしいよ。どの曲のドラムも最高だと思う。



―レディオヘッドについては、アルバムでいうと『In Rainbows』がとくに好きなんじゃないかと思ったのですが。

PB:ビンゴ! 『The King of Limbs』も好きだけれど、『In Rainbows』はベストだね。

―最近、イギリスの若いミュージシャンから『In Rainbows』の影響を感じることがよくあります。あのアルバムのどんなところが革新的だと思いますか?

PB:そうだな……わからない。ただ完璧なアルバムなんだ。フローは完璧で、退屈する暇がない。一息つきたいと思ったら静かな曲になって、また盛り上がってくる。長すぎないし、全曲がすごくよくできていて、メンバー全員が最高のパフォーマンスをしていると思う。それにプロダクションも、時代を感じさせない。昨日出たアルバムって言われても、40年前のアルバムって言われても不思議じゃないよ。タイムレスでありつつ、未来の雰囲気も持ち合わせている。でもやっぱり、コアは曲だよね。一曲ずつがどれも特別で……こうやって説明しようとしても、やっぱり腑に落ちないな…… わからない、わからない! とにかく奇跡のアルバムなんだ。あれを作っていた時、何を吸っていたのか知りたいよ(笑)。


プーマ・ブルーによる「All I Need」(『In Rainbows』収録曲)のカバー

Translated by Ayako Takezawa, Natsumi Ueda

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