Puma Blueが語る静寂の美学、ダークでメランコリックな音楽表現の源

悲しみの中に美しさを見出すこと

―話を戻すと、プロダクションはアルバムごとに目に見えて進化している印象があります。初期の頃からの変遷を説明することはできますか?

PB:もちろん。EPの『Swum Baby』と『Blood Los』は、限られたリソースの中で制作していた。今もそうだけれど、友人たちと一緒に制作できるようになって、サウンドがより生きてきた。それまではベッドルームでパソコンとマイク片手に作っていたんだ。

『Holy Waters』は、80パーセントくらいはインプロなんだ。ジャムをレコーディングして、思いつくままに曲を作ったりしていた。それにサウンドがよりクリアになったよね。でも、最近は、もう一度ローファイなサウンドに戻ろうかと思っている。一種のサイクルだね。




―機材が変わったり、スタジオを使用するようになったりと進化している一方で、プロダクションにおいて変わらない部分はどういところだと思いますか? あなたの核の部分と言いますか。

PB:そうだな……今でも自宅で、ギターで曲を作っているよ。(『Holy Waters』収録の)「Pretty」や「Mirage」も自宅で作ったんだ。それは(2017年の初期曲)「Want Me」や「(She's) Just A Phase」を制作したときと同じ。プロセスは変わっていない。それに、僕はLogic Proっていうソフトウェアを使い続けている。高価なプラグインとかあるけれど、僕はずっとプリセットを使い続けているんだよね。



―進化の過程について聞きましたが、あなたの音楽には共通して表現したいカラーやムード、感情など、一貫しているものがあるから、どの音楽を聴いてもプーマ・ブルーの音楽だと感じることができているのかなと思うんですが、どうでしょうか?

PB:プーマ・ブルーとして表現したい音楽を毎回目指しているんだと思うけれど、それにどういう特徴があるかは自分でもわからない。きっといろんな影響や好きな音楽のある要素が反映されているんだろうけれど、僕はジャンルに縛られている音楽より、いろんなスタイルが混ざり合いながらきちんと成り立っている音楽が好きなんだ。でも、ただたくさん混ぜればいいってわけじゃない。あるムードを持っていることが求められる。僕の場合はソフトでメランコリック、心地よく、ほどよく酔った感じ、って言えばいいかな。今日はこの言葉ばかり使っちゃっているけれど、少しダークな音楽が好きなんだ。自分を一番表現できる音楽で、この感情に共感してくれる人がいると思っている。

―1stアルバム『In Praise Of Shadows』のタイトルは谷崎潤一郎の本『陰影礼賛』に由来するものですよね。彼の小説ではなく、評論集だったのが面白いなと。どんなところから影響を受けたんでしょうか?

PB:それは、最初に話した「間」についての感覚だと思う。元カノからもらったんだけど、あの本は静寂の美学について書かれていた。「暗さは明かりと同等に大切だ」という考えにすごく惹かれたんだ。それから、東洋では、神聖な空間は屋根が作る陰に取り込まれている。それが「日本の神秘であり、不変の静寂」だと彼は言っている。それに、例えばイタリアでは、緻密に描かれた天国の絵が称賛の対象になっているけれど、日本は情報の不足に神聖さを見いだしている。それを読んで、僕は音楽の「間」について考えていたんだ。無数の音で埋め尽くすこともできるけれど、相手の心に届けるには「間」が必要なんじゃないかと思った。「足るを知る」ということだね。



―谷崎は日本的なあり方を陰に見いだしているんですよね。イギリス人のあなたが、日本的な美学にそこまで惹かれたことは興味深いなって。

PB:陰を大事に思うことは当然だと思う。日が沈んで暗くなってまた日が昇る。生きていく中で重要な要素だよね。空間と静けさはすごく神聖で、僕にとっては大切なんだ。

―ところで谷崎の小説を読んだことはありますか?

PB:まだ読んだことはなくて。なにかおすすめはある?

―『痴人の愛』とか『刺青』とか、代表作はおもしろいですよ。谷崎って退廃的で耽美的な表現が特徴で、フェティシズムや性的な部分を書いている変わった作家で、その中でもロマンティックで詩的で、暗くて、ちょっと変なところはプーマ・ブルーの音楽に通じると思います。

PB:たしかに。共通点がたくさんあるんだね。


Photo by Kazumichi Kokei

―あなたの音楽は、暗いところがあってメランコリー、グルーミーで静かな面がありますよね。一方で、秘めているエネルギーがものすごく強い音楽でもあります。例えば、自分の音楽を説明する時に「生と死」で説明すると、どうなりますか?

PB:僕は、音楽表現をするなら、何か意味のあることを言う必要があると思っている。世界中にはすでに音楽が溢れているし、ただノイズを増やしたくはないんだ。だから、本当に心から感じたことだけを音楽にしようとしている。それは些細なことかもしれないし、別れ、死、大切な人を失うことといった重いテーマかもしれない。心が動いたときの情景を音楽にしようとしているし、一番正直だと思う。正直でなければ音楽をする意味はないし、もし正直でないなら、僕はただ音楽を聴いて黙っていればいいって思ってる。だから、僕がすごく熱中しているものがあれば、それが音楽に出てくるだろうね。『Holy Waters』は大きな悲しみを経験したから、悲しみがテーマになっている。それが、僕の音楽表現なんだ。

―あなたの音楽はダークで悲しみや辛さも感じられますが、生きることを歌っているんだなって感じていました。今日、あなたとお会いして、あなた自身にもそのことを強く感じました。生のエネルギーに溢れているなって。

PB:それは、『陰翳礼讃』を好きな理由にも関係している。どこであれ美しさを見いだすということだね。もちろん、大切な人を失った時の悲しみは否定できない。でも、その悲しみの中にも美しさを見つけなければいけない。それが、生きることだと思うんだ。




プーマ・ブルー
『Holy Waters』
発売中
詳細:https://bignothing.net/pumablue.html

Translated by Ayako Takezawa, Natsumi Ueda

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