リンダ・リンダズが語る「成長するってこと」 パンクと多様性、愛する音楽との繋がり

Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved

2022年春に1stアルバム『Growing Up』を発表し、SUMMER SONIC 2022で初来日を果たして以降もリンダ・リンダズ(The Linda Lindas)は(学業にも追われながら)精力的に活動を続けてきた。

まずは2022年末にクリスマス・ソングの「Groovy Xmas」をリリース。2023年は「Too Many Things」「Resolution/Revolution」と2つの新曲をリリースしつつ、レイ・チャールズのバージョンが有名な「Drown In My Own Tears」や、ミュージック・エクスプロージョンのバージョンが有名な「Little Bit 'O Soul」といった気の利いたカバー曲もリリース。ゴーゴーズの「Our Lips Are Sealed」とバングルスの「Manic Monday」のコピーから始まったというリンダ・リンダズのカバー・バンドとしての出自を改めて知らしめるかのような展開となった。

そして2024年。PUNKSPRING 2024への出演に併せて、東京と大阪で待望の単独公演が開催。3月18日に渋谷duo MUSIC EXCHANGEで行われたライブでは、ラモーンズの「Do You Remember Rock 'n' Roll Radio?」を出囃子に登場、日本では初披露となったビキニ・キルの「Rebel Girl」やマフスの「Big Mouth」といったカバーを織り交ぜつつ、以前より骨太になった演奏でロック・バンドとしての確かなスケールアップを観客に印象付けた。締めくくりはもちろん「リンダリンダ」!  一見するとクールながらも観客を煽りまくるベラ、天真爛漫な振る舞いのルシア、マイペースにビートを刻み続けるミラ、ハードなシャウトで吠えるエロイーズと、四者四様の個性はきちんと健在。バンドの未来への期待はさらに大きくなるばかりだ。

7月から始まるグリーン・デイの全米スタジアム・ツアーにフロントアクトとして帯同することも決定し、1stアルバム『Growing Up』のタイトルである「成長」を体現し続けている彼女達が、東京公演の開演直前にインタビューに応じてくれた。


エロイーズ・ウォン Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved


ベラ・サラザール Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved

2度目の日本、LAパンクと多様性

―ライブの1週間ほど前にすでに日本に到着されていたようですが、どんなところに行かれていたのですか?

エロイーズ:今回は京都に行って猿を見たり(注:おそらく嵐山モンキーパークのこと)、奈良で鹿を見たり、色んな寺や神社に行ったりした。

ルシア:日本に前回来た時は夏だったから暑くて湿度も高かったけど、今回は気温も低くて旅行するのに最適な時期に来れたと思う。日本には名所がいっぱいあるから、今回も色んな新しい体験ができて凄く楽しかった。


―ジブリ美術館にも行かれてましたよね?

ベラ:ええ。とっても感動した。

エロイーズ:ジブリ映画の制作工程が知れて本当によかった。キャラクターのスケッチや絵コンテがアニメになっていく過程は職人技の極みって感じで。

ベラ:自分は美術館とかに行ってもそんなに感動することってないんだけど、ジブリ美術館に展示されていたスケッチの数々を見た時は本当に涙が出そうになっちゃった。

エロイーズ:そこで見たキャベツの絵は、自分がこれまで見てきた中で最も美しいキャベツだと思った。

ルシア:絵に感動したっていうより、食い意地が張ってるだけでしょ(笑)。

エロイーズ:食べたくなるぐらい素敵なキャベツの絵だったのは確かだけど(笑)。


ルシア・デラガーザ Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved


ミラ・デラガーザ Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved

―今回の来日ツアー用に作られたツアーTシャツにはタコが描かれていますが、大阪名物のタコ焼きは食べられましたか?

エロイーズ:タコ焼きは食べてないけど、タコの中に卵が入ってるやつは食べた(注:たこたまごのことだと思われる)。卵が入ってるって知らなくてビックリしちゃったけど美味しかった。

ミラ:その時の写真を見せてもいい?

エロイーズ:私の鼻もタコみたいに赤くなってるの(笑)。

ミラ:動画もあるよ(笑)。


その時の写真(Photo by Mila de la Garza)

エロイーズ:Tシャツの絵については、何年か前にベスト・コーストのベサニー・コセンティーノと一緒に「Color Me Mine」って陶芸スタジオに行った時に、顔が猫で身体がタコになってるリンダ・リンダズの4人をマグカップに描いたんだけど、それが元になってる。

ルシア:素敵な絵だったから何かの形で使いたいとずっと思ってた。


2024年来日ツアーTシャツ(こちらのリンク先で販売)

―そのベサニー・コセンティーノの1stソロ・アルバム『Natural Disaster』が昨年リリースされました。この作品はシンガーソングライター・アルバムの大傑作だと思うのですが、ブックレットには「音楽を作る新世代の女の子達にインスピレーションを与えてくれたリンダ・リンダスに感謝を」との謝辞が綴られています。かつて自分達に影響を与えてくれた人達に対して、今は逆に自分達が影響を与えるような立場になったという状況の変化についてどう思いますか?

ルシア:信じられないぐらい。ベスト・コーストはずっと聴いていて、子供の頃から「When I'm With You」や「The Only Place」は大好きな曲だったから。ベサニーは才能溢れるシンガーソングライターだと思うし、今もミュージシャンとして成長を続けているのが本当に凄いと思う。しかも、とっても優しくて素敵な人だし。

ベスト・コーストのメンバーのボブ(・ブルーノ)は今や私達のギター・テクニシャンとして一緒にツアーを回ってくれている。こうやって彼らと繋がることができたなんて、奇妙にも思えるけど最高にクール!

エロイーズ:ベサニーはリンダ・リンダズの結成当初から私達の熱心なサポーターでいてくれたし、そこも含めて凄く嬉しく思ってる。ベサニー大好き!



―マフスのアルバム『Whoop Dee Doo』のブックレットに掲載されているライブ写真はエロイーズさんの父親のマーティン・ウォンさんが撮影されていて、あなた達もマフスの「Big Mouth」をカバーしています。ここまでのリンダ・リンダズとしての活動で、自分達もマフスのように何世代にも渡って影響を与え続けるバンドになったという実感はありますか?

エロイーズ:「影響を受けた」と言ってもらえるのは嬉しいことではあるけど、ちょっと不思議な気持ちにもなるかな。自分達は好きなことをやって楽しんでるだけだし、実感はあまりないかもしれない。それはともかくとして、マフスは本当に大好き。キャッチーなんだけど、荒々しさもあって素晴らしいと思う。

ルシア:マフスはずっと好きだな。彼らの曲を聴くと懐かしさと安心を覚えるというか。自分にとってはそういう存在。アルバムで矢継ぎ早に曲が繰り出されるのも最高だし。

―エロイーズさんの歌唱法はマフスのキム・シャタックっぽいと感じることもあります。

エロイーズ:自分もあんな風に歌えるようになれたらと思ってる。メロディアスな曲の中で放たれる彼女のシャウトが大好きなの。




―マーティンさんとリンダ・リンダズも出演しているドキュメンタリー『Chinatown Punk Wars』を観て、LAパンクの中心地となったのはチャイナタウンのライブハウスであり、その場所柄もあってLAパンクは最初から人種の多様性を内包していたことを知りました。あなた達は以前にササミ「Not The Time」のMVに出演していましたし、最近ではヤー・ヤー・ヤーズやジャパニーズ・ブレックファストとも共演されていましたが、そういったアジア系アーティストの現状は半世紀近く前の『Chinatown Punk Wars』の頃からどう変わったと思いますか?

エロイーズ:パンクって一般的には「白人男性が叫びまくっている音楽」みたいなイメージがあるのかもしれないけど、実際には当初からもっと多様性に富んだものだったわけで。有色人種もいたし、男性のバンドばかりでもなかった。たとえばアリス・バッグ。たとえばアレイ・キャッツのダイアン・チャイ。パンク・シーンにちゃんと目を向ければ、例は無数にある。どんな人でも作れる音楽で、そういう多様性のあるところこそが私はパンクの美しさだと思ってるから。

ルシア:時代は確実に変わってきている。今はK-POPもあるし、これほどアジア系アーティストの音楽が世界中で広く受け入れられてる時代もないんじゃないかな。今は誰もが、どんなタイプの音楽が好きでも許されるようになったと思うし。

エロイーズ:インターネットで簡単に世界中の面白い音楽を知ることができるのも大きいよね。必要なのは好奇心だけ!


『Chinatown Punk Wars』は米メディアPBS SoCalによる南カリフォルニア文化史を追った番組シリーズ「Artbound」の第14シーズンとして2023年に放映。ジョン・ドゥ(X)、アリス・バッグ(バッグス)、キース・モリス(サークル・ジャークス他)らも出演

―『Chinatown Punk Wars』のキーパーソンであるマダム・ウォン(LAパンクの中心地となったライブハウスの経営者)と、エロイーズさんとマーティンさんのウォン家は家系的に繋がってたりするのですか?

エロイーズ:ただ同じ苗字ってだけ(笑)。名前といえば、私の「エロイーズ」って名前はダムドの「Eloise」(バリー・ライアンの60年代のヒット曲のカバー)から名付けられたの。だからPUNKSPRINGでダムドのライブを観れたのは嬉しかったな。興奮してモッシュにも突入しちゃった(笑)。


Translated by Sachiko Yasue

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