三浦大知がアルバム『OVER』の核にあるものを語る この時代に問いかけたかった想い

三浦大知(Photo by Kentaro Kambe)

三浦大知のニューアルバム『OVER』は紛れもない傑作だ。『球体』(2018年)や『Backwards』(2021年)で示された音楽性をさらに発展させつつ、楽曲の顔となるメロディは格段に明快になっていて、複雑な奥行きと直感的な楽しさが美しく両立されている。

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そのうえ曲順も絶妙で、トータル34分の組曲として延々リピートできる流れの良さが素晴らしい。ポップミュージックとしての訴求力と、アルバムというパッケージだからこそ表現できる構造美をここまで兼ね備えた作品は、R&Bというジャンルに限らず稀ではないだろうか。以下のインタビューは、『OVER』のそうした魅力についてじっくり掘り下げたものである。アルバムをリピートしながらお読みいただけると幸いだ。



ーニューアルバム、本当に素晴らしい仕上がりですね。これまでとは異なるタイプの傑作だと思います。アルバムとしては実に5年半ぶりの作品になるわけですが、これほど時間が空いた理由を伺ってもよろしいでしょうか。

ありがとうございます。時間が空いたのは、いろいろやっていたからですね(笑)。ツアーがあったり、映像作品もたくさん出してるし。制作期間としては、打ち合わせの段階も含めれば一昨年あたりからでしょうか。いつも絞り出している感じで、今回もいっぱい頑張りました。

ー『OVER』というタイトルには、どのような思いが込められているのでしょうか。

もともとはすごい変なところから出てきたキーワードなんですね。新しいアルバムを作ることになった時に、シングルが7曲あったんですよ。それを全部入れた上で、例えば11曲入りのアルバムになった場合、新曲が4曲しか入らないじゃないですか。それってアルバムって呼ぶのかな、プレイリストを作るのと大差ないのではと思って。それで、シングル曲がオーバーしてるなって思ったんですよ。それはチーム内で軽く話すくらいのことだったんですけど、OVERという言葉はなんとなく自分の中に残っていて。ライブに対するスタンスだったり、新しいものを作ったりしていくうちに、自分を超えていく、いろんな垣根をOVERしていろんな人に繋がっていけたらいいなと感じて、OVERというキーワードがとてもいいなと思い、アルバムのタイトルにもなったということですね。

ー様々な方がプロデュースされていますが、曲作りについてはどのようにオーダーされましたか。Nao’ymtさんやUTAさんはいつもご一緒されていますが、久しぶりの方もいらっしゃいますよね。それぞれの方に好きなように作ってもらったのか、それとも具体的に曲調を指定したのでしょうか。

ご一緒する方によりますね。基本的には、三浦大知という存在がプラットフォーム、遊び場みたいなものになればいいなと思っているんです。そこに遊びに来てくれたクリエイターの方やダンサーの方がみんな伸び伸びと表現できる、というのが三浦大知として作りたい場所なので、今回はこういうテンポでこういう展開だ、みたいなのはそこまで言いたくない。どちらかと言えば、皆さんの世界と混ざり合いながら作らせていただけたら、という感じですね。人によってはテーマから何から全部お任せして、自分は歌い手やストーリーテラーとしてその物語をどう読むかということに注力する場合もありますし、その一方で、「今日は何を作りますか」「こういうビートで、こういうベースで」みたいなことを言いながら、ゼロから一緒に作っていく場合もあります。

ー曲の長さについての指定はされましたか。それぞれ短めに凝縮されていて、だからこそ良い仕上がりになっているタイプの作品でもあると思います。

そうですね。分数に特にこだわったということはないんですけど、今の空気感というか自分の体感からすると、長すぎないんだけどすごく密度が濃い、というのが刺さったんだと思います。「能動」なんかもそんな感じですよね。

ーはい。そのうえで、アルバム全体の流れが非常に良いと思うのですが、これはあらかじめ全体像を考えた上でオーダーされたわけではないのでしょうか。

それは考えていなかったですね。今の自分が本当に一緒にやりたいクリエイターの方々と、作りたい10曲に全力で向き合ったという感じです。

ーなるほど。これは個人的な印象なのですが、今回のアルバムの曲順構成は、迂回しているけれども見通しが良いというか、円環構造として完成されているように感じるんですよね。その上で、徹底的に攻めているんだけどエンターテイメント性もすごくあって、前衛的な印象より親しみやすさのほうが勝っている。とても際どいバランスのもとに成り立っている作品だと思います。こういう伝え方みたいなことは意識されていましたか。

そうですね。やっぱり、ライブの演出だとか、それをどう届けるかみたいなところは、自分もチームの面々もいろいろ考えますね。それで今回も、どう届いたらみんなにとっても一番楽しくなるだろうか、ということは考えながら作りました。


Photo by Kentaro Kambe

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