三浦大知「Backwards」を考察「リスナーを信用した上での挑戦的な姿勢」

三浦大知

好評発売中の「Rolling Stone Japan vol.14」で表紙を飾った三浦大知が、ニューシングル「Backwards」を4月21日にリリース。表題曲では、これまでアルバム『球体』やシングル「Blizzard」「Unlock」など数々の名トラックを生み出してきたNao’ymtと約3年ぶりのタッグが実現。カップリングには同氏が提供したもう1つの楽曲と、最も勝手知ったるクリエイターの1人、UTAを起用した2曲が収録されている。同作の音楽的背景を、気鋭のライターs.h.i.が考察。

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Nao’ymt、UTAという「大きな二本柱」

三浦大知の音楽は7thアルバム『球体』から前人未到の境地に突入した感がある。同作の全楽曲を手掛けたNao’ymtはJ-R&Bシーンの名作曲家として知られるが、ソロ名義ではアンビエント方面の電子音響やポストロックにも通じる仄暗く静謐な音世界を探究しており、それに三浦が惚れ込んだところから制作が始まった本作ではこのような豊かな持ち味が全開となっている。

その上で凄いのが、リリース当時のポップミュージックシーンにおける世界的潮流が緻密に網羅されていることだろう。「対岸の掟」ではフランク・オーシャンやソランジュらが採用し大きな影響を与えたニューエイジ的意匠(『球体 独演』では舞台上に森林の映像が映し出された)が自然に活かされており、「世界」はそうした雰囲気とマイケル・ジャクソンを接続した名曲ともいえる。また、「淡水魚」や「綴化」はザ・ウィークエンドやフルームに通じるダークなオルタナティブR&Bで、随所で披露されるコンテンポラリーダンスはそうした音楽性の代表格であるFKAツイッグスも想起させる。それらと並んで仄暗い場面を担う「胞子」「誘蛾灯」は2010年代末のヘヴィな音響構築における重要なトレンドとなったインダストリアルサウンドを駆使したものだし、「テレパシー」のフォークロック~ポストロック的な音作りと音進行も、ボン・イヴェールから近年のテイラー・スウィフトなどにも連なるインディーロックの主要なスタイルに近い。



こうした音楽性はNao’ymtの私小説的な表現志向を開放する器としても時代の半歩先をいく戦略としても絶妙で、シリアスな雰囲気を汲み取りつつポップな親しみやすさを嫌味なく生み出す三浦の声とダンスが加わることにより理想的な陰陽バランスに完成される。三浦が折にふれて語る「日本語の曲が世界で普通に聴かれるようになったらいいなって」「日本語のリズムがすごく好きなんです。『日本語はダンスミュージックに向いていない』って言われがちなんですけど、自分はそんなこと思ってなくて」という志向もフューチャーベースの名曲「飛行船」における美しい和楽器アンサンブルなどとあわせ見事に具現化された同作は、世界的にみても屈指の“タイムレスでありオンタイムでもある”傑作なのだと言える。

この『球体』の1カ月後に発表されたNao’ymt作シングル「Be Myself」は、初見で正確に拍を把握するのがほぼ不可能な暗く幻惑的なイントロ(歌メロは2拍目スタートでシンセが裏拍に入る)から地下のダンスフロアへ浮上しMJ「Thriller」的大サビに至る構成が抜群の“よくわからないが理屈抜きに格好良い”訴求力を生む一曲で、これを紅白歌合戦という大舞台で披露できる実力と攻めの姿勢は今の三浦大知のモードをとてもよく表している。



そのNao’ymtと並んで音楽面での重要なパートナーとなっているのがUTAである。この2人について三浦は2017年のインタビュー(avex公式掲載)で以下のように述べている。

「僕の作品作りはNaoさんとUTAさんが大きな二本柱で、2人がいないとなかなか成り立たないところがあるんですけど、2人はものつくりの方法が全然違うんですよ。Naoさんはテーラーメイドなんですよ。(中略)『この人ならこれ』と思ったら、その人にしか似あわないものをバシッと作る。UTAさんはメチャクチャ器用で、いっぱいクローゼットがあってバーンと開けたらいろんな洋服がある感じ。で、『どの組み合わせでもいいよ』『それとそれとそれを着たいんだったら、これを合わせたら面白いんじゃない』みたいなことができるような人なんです」

UTAのこうした持ち味は近年のシングル「片隅/Corner」「I’m Here」「Antelope」でも十全に発揮されており、Nao’ymtが『球体』で切り拓いた境地を引き継ぎつつ三浦大知の音楽をさらなる高みに押し上げている。


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