三浦大知がアルバム『OVER』の核にあるものを語る この時代に問いかけたかった想い

アルバムとしての意味

ーそして、7曲目がNao’ymtさん作詞・作曲の「羽衣」ですね。特にこの曲に顕著なのですが、90年代あたりのオーセンティックなR&Bの感じと、数年先を見ているかのような近未来感がともにあって、新しいんだけど懐かしいみたいな絶妙な感じが出ているアルバムだと思います。だからこそ、これから何年経っても良いと感じられる、タイムレスな魅力が生まれているのではないかと。こういう感じは、特にこういうふうに作ってくださいというオーダーなしで出てきたものなのでしょうか。

こういうのに関しては、本当にNaoさんの思うがままに作っていただく感じで。この曲の歌詞も、天女の羽衣の伝説みたいに、忘れられない瞬間をテーマにしているように思います。デモを聴いたときもすごく美しい曲だと感じましたし、言っていただいたようなR&Bのいなたさ、ビートのスクラッチなどのバランス感覚みたいなものも、やっぱりNaoさんならではだなと思います。すごく踊りたくなりますし、好きな曲ですね。



ー先ほど申し上げた歌詞の譜割りのすごさみたいなことは、もともとNaoさんの曲で特に感じていたことだったのですが、そうしたつくりに影響を受けたところはありますか。

そうですね。韻の合わせ方や響き込みで意味を作り込んでいくのを毎回本当に丁寧にやられていて。自分もそういうところに影響を受けているのかなと思います。言葉の使い方の方向性は違いますけど、音の響きとして心地いいかどうかはとても参考にしていると思いますね。

ーありがとうございます。ここからはアルバムという表現形態へのこだわりについて伺ってもよろしいでしょうか。

今はいろんな解釈があるのかなと思うんですよ。サブスク的なものが主流になって、みんなが自分の好きなプレイリストを作るようになったこともあって、曲順みたいなことに執着しない人も多くなった。なので、アーティストの人たちも、アルバム的なものをあまり作らなくなった時代も一瞬あったと思うんですね。でも、今は逆に、それだからこそアルバムという作品性を持ったものを作りたいという方向に行く方も増えている。それこそVaundyさんとかKing Gnuさんとかは、ものすごく曲数が多くして、ひとつの舞台芸術とか映画のような、作品としてのアルバムを作られていますよね。

それで、今回の自分のものに関しては、全体で1曲というか。曲調のバリエーションはすごくあるんですけど、三浦大知チームの作っているものという軸はしっかり通っていて、34分をつるっと聴ける、それがぐるぐる繋がるようになっている。そういうふうにできると、アルバムとしての意味があるのかなと思っていたので。今回はそういう作り方にしましたね。

ー確かに。先ほど「攻めているけれども親しみやすい」と申し上げましたが、三浦さんの声自体にそういう持ち味があって、多様な曲調に統一感を与える軸になっている、三浦さんの声があるからこそ成立しているアルバムなのだなとも思います。それでは、もうひとつの重要な要素であるダンスについても伺いたいです。振り付けについては、曲を作っている段階から意識されているのでしょうか。

なんとなくはあります。楽曲を作っている段階で、なんとなく映像が浮かんでくるので。どんなダンサーが踊ったらカッコいいかなとか、ここはこういうフォーメーションでやったら良さそうだなとか、ここはむしろダンスが無いほうが曲にとっては正解だなとか。そういったことを軸に作っていきますね。

ー三浦さんはダンスと歌を同時にされるので、ブレスの位置の難しさみたいなこともあると思うんですね。なので、振り付けを考えた結果、歌の譜割りも変わっていくようなこともあるのでしょうか。

そうですね。やはりブレスの位置が多少は変わったりすることはありますね。作っている段階からそこまで意識しているというわけではなくて、ダンスを作っていく段階で、動きと歌を同時に表現していくには、ここにもう一つブレスがあったらいいな、みたいに考えていきます。自然に生まれていく感じです。今回のアルバムは曲調が多彩ですが、それも振り付けの幅を意識してそうしたというよりは、音から感じたことがダンスになるということで。曲に引っ張られていろんな面白いものが生まれたらいいな、という感じですね。大部分の曲はこれから振り付けを作っていきます。「全開」とか大変そうですね。「全開」と言っているし、全開でやらざるを得ないので(笑)。

ー納得です。いままで以上に様々なところに届きそうな、本当に素晴らしいアルバムだと思います。リリース後の活動や展望などについても伺ってよろしいでしょうか。

アルバムが2月14日にリリースされた後に、3月から4月にかけてアリーナツアーがありますね。そこで全曲やることになります。音や映像など様々なことが集約されるのがライブなので、まずはそこへ向かっていけたらいいなと思っています。TV番組などでも、リード曲以外の曲もやれたらいいですね。

ー先行リリースされた「能動」も、たとえばNumber_iさんの「GOAT」などもそうですが、ポップだけど展開が多くて攻めているような楽曲が、いまの日本のシーンでも受け入れられやすくなってきているように感じます。これはもちろんアーティストのパワーやファンダムの強さによるところも大きいですが。三浦さん的には、いまのシーンの流れを意識するようなことはありますか。

いやあ、あんまり意識してないですね。いち音楽ファンとしては好きでたくさん聴きます。海外のものも。でも、いまのシーンがこうだから自分はこうする、みたいなのはないですね。この手のビートが流行っているから乗っかるというのはなくて、そのビートに自分が心を動かされたから自分もやるというふうに、自分のなかに物差しを持ってやっていく感じだと思います。



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