SZAロングインタビュー 葛藤を歌うシンガーの新たな季節

リゾへの想い

MV撮影の数日後、SZAは編集作業のためにカリフォルニア州のプリティバード(ビヨンセ「Formation」のMVを手がけた映像制作会社)を訪れていた。編集の方向性について監督のブラッドリー・J・カルダーと議論し、編集室を出ようとするとき、「自分が言いたいことをもっと自由に言えたらいいのに。どうしてそれができなかったんだろう」とSZAは言った。さらに彼女は、いたずらっぽく続ける。「『SZA? あいつはダメだ』といった声を聞くと、もっと自己主張すればいいのかな、もっと実績を自慢しまくればいいのかな、と思ってしまう」。実際、彼女はいくつもの偉業を達成してきた。『SOS』は全世界で10億回近く再生され、「Kill Bill」は全米シングルチャートの頂点に輝いた。だが、勝利をひけらかすのは自分らしくないと考える。「私はただ、前よりもいいものをつくりたいだけ。誰かと比べられることが避けられないなら、相手よりもいいものをつくりたい。それが私の性格だから。私は生来の負けず嫌いなの。そんな自分に満足している。別に私は、誰かを傷つけたいわけじゃない。ただ、最高なものをつくりたいだけ」。

そう言いながらも、負けず嫌いな性格が苦しみの根源であることもわかっている。それは、彼女にとって運命のようなものなのだ。「自分の欠点を全部まとめて受け入れることで、はじめてそこから立ち直れるような気がする。それに私は……世間からいい子だと思われなくてもいい。勝ち気な人間だと思われても構わない」。

筆者が「あなたのことを優しい人間だと思っている人もいるはず」と指摘すると、優しい人間ではなく、弱い人間だと思われているのだとSZAに訂正された。「腹立たしいことに、世間は私のことを弱い人間だと思っている」と。自分の不安定さを歌にしたことで、それが自身のイメージとして定着してしまった。世間は、SZAないし楽曲のひとつの側面だけを見て、それがすべてだと思ってしまう傾向がある。


Photo by Gianni Gallant
OUTFIT BY Y/PROJECT. RINGS BY BONY LEVY & SZA’S OWN.

私は、セクハラ疑惑の渦中にあるリゾのことを思った。SZAとリゾは、10年近くの友人なのだ。ふたりが初対面を果たしたのは、ミネアポリスのライブ会場だった。いちファンとしてライブに来ていたリゾは、SZAと一緒に写真を撮った。その翌年にリゾは、SZAの2015年のミニツアーのオープニングアクトを務めた。近年、ふたりは互いを称え、支持を表明し合っている。リゾのヒット曲「Special」にSZAがゲストボーカルとして登場するリミックス版が発表されたり、『SOS』に収録されている「F2F」にリゾがボーカルとして登場したり……レコーディング中にEPとしてリリースできるほど大量のロックソングも共同で書き上げた。2023年の初めにSZAは、「リゾと私ほど息の合ったコンビは、音楽シーンに存在しない」と語っている。

私は、SZAが不安定で弱い人間という世間の偏ったイメージについて話すのを聞きながら、リゾのことを考えていた。リゾは、痩せていることが美しいという従来の価値観にとらわれず、ありのままの体型を愛する「ボディポジティブ」と人々に自信を与える「エンパワーメント」の体現者とみなされてきた。そのため、元ダンサーの3人がセクハラ(職場でのいじめや性的いやがらせなど)でリゾを訴えたとき、ファンは大いに失望と怒りを感じたのだった。

ふたりのアーティストのイメージがそれぞれの音楽によって決まり、そうしたイメージをくつがえすかのような情報が出てくる。身も蓋もない言い方だが、これはSZAとリゾに向けられた非難の正当性に疑問を投げかけるうえでの重要なポイントだと思う。だからこそ、私はあえてこの点に触れたのだった。

献身的で周りを元気にできる人というリゾのイメージは、SZAにとってはリアルなものである。「カーテンの後ろに、すべてを操っている人がいるのでは?と誰もが思いたがっている。まるで『オズの魔法使い』のように。でも、必ずしもそうとは限らない。カーテンの後ろには、誰もいないことだってあるんだから」とSZAは言いながら、完璧な人間ではないけれども、本物のシンガーであるリゾのことを思って目に涙を浮かべた。SZA自身、状況が複雑なことに加えて、自分は詳細を知らないこともわかっている。だからこそ、公の場ではこれ以上言おうとしない。「私はただ、リゾという人間の価値とそのエネルギーに基づいて彼女を見ている。この件の関係者全員の心の傷が癒されることを願っている。誰にでも傷を癒やし、安全で愛されていると感じる権利があるのだから。すべてが語り尽くされてひと段落したら、せめてそう思えることを願っている」

Translated by Shoko Natori

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