SZAロングインタビュー 葛藤を歌うシンガーの新たな季節

異彩を放つパーソナリティ

2017年に発表されたデビューアルバム『Ctrl』は、SZAが自分に対する自信のなさや絶望感、卑劣さをさらけ出し、欠点ともいうべき自らの弱さを詩的に昇華させた作品である。二番手の女の心境を歌った「The Weekend」、恋人宛の別れの手紙のなかで男友達と浮気していたことを明かす「Supermodel」といった収録曲の歌詞からもわかるように、SZAは自分が“嫌な奴”であることを自覚していた。そのうえで、自分のさまざまな側面を受け入れ、より良い人間になれるとも信じていたのだった。ハスキーな歌声とスタンダードなR&Bとは一味違う危うい“告白”によって、彼女はその他大勢の若手シンガーのなかでも異彩を放つ存在となる。

「オルタナティブR&B」というジャンルにおいても、SZAはそのルックスによって一線を画していた。ご覧の通り、彼女は黒人である。体重は90キロで、古くさいブカブカの服を着ていた。これについては以前、本誌のポッドキャスト「Rolling Stone Music Now」のなかで「私が出てきた当初、(シンパシーを抱いたのは)ジェネイ・アイコやティナーシェ、FKAツイッグスくらいだった。でも、彼女たちはスリムで、私よりも肌の色が明るかった」と語っている。アーティストとしてのキャリアを歩みはじめた当初は、大学中退の落ちこぼれと非難され、一部のオーディエンスから受け入れてもらえなかったという。それでも、『Ctrl』以前からオンラインで楽曲やEPをリリースし、ささやかなファンダムを築き上げていた。筆者もまた、黒人女性の美しさをより自然に表現しているSZAに惹かれてきた人間のひとりである。彼女のルックスのおかげで、より多くの人が楽曲の歌詞に共感したのも事実だ。そういう意味でも、『Ctrl』は、SZAがマスに贈った自己紹介的な作品でもあった。



その後、SZAは凄まじいスピードでスターダムを駆け上っていく。ひっきりなしに仕事が入り、忙しい毎日が続いた。そして、2022年12月に2ndアルバム『SOS』がリリースされると、世間は瞬く間にこれを絶賛した。オープニングトラック「SOS」(歌詞のなかで、ネット上でささやかれていた豊尻手術が事実であることに触れている)をはじめ、何から何まで画期的だったのだ。『SOS』は、(自転車で立ち漕ぎしたくなるような)田舎町特有の閉塞感にはじまり、メディアに追いかけ回されながらも自分の考えを発信し続けるセレブリティとしての彼女の進化を描いていた。

SZAは、『SOS』を通じて『Ctrl』を再現しようとしたわけではない。それどころか、元カレ殺害の妄想やセレブ男性からのメール、自己嫌悪などを盛り込むことで、よりパワフルで大胆な作品に仕上げている。ラップ、ロックソング、壮大なポップバラードを取り入れるいっぽう、ベイビーフェイスが手がけた楽曲をみごとに歌い上げるなどR&B界の懐も潤わせた。『SOS』は、全米アルバムチャートで合計10週にわたって1位の座に輝き続け、ビヨンセやジャネット・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストンの記録を抜き去った。


Photo by Gianni Gallant 
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この1年間、SZAの音楽は世界中の至るところにあふれていた。ロサンゼルスで彼女に張り付いて取材をしていたときも、あらゆる場所で彼女の曲を耳にした。ネイルサロンのスピーカーからはK-POPアーティストによる「Kill Bill」のカバーが流れ、本記事の撮影のためにスタジオに行く道中でも、ラジオから「Snooze」がかかっていた。実際、ヒップホップ専門のラジオ局では、何カ月にもにわたって1位の座を守り続けている。

SZAの豪胆な性格は、その多様な能力に依るところが大きい。人間には複数の能力があるという「多重知能(MI)」の理論を提唱した心理学者/ハーバード大学教授のハワード・ガードナーは、人間の知能を「言語・語学知能」「音楽・リズム知能」「対人的知能」「視覚・空間的知能」「身体・運動感覚知能」「博物学的知能」「内省的知能」「論理・数学的知能」の8つに分類している。SZAは、ほぼすべてを備えているのではないだろうか。

なかでもSZAの「言語・語学知能」と「音楽・リズム知能」は、切っても切れない関係にある。まるで語りかけるかのように自然なその歌唱と歌詞には、リアルで具体的なエピソードがふんだんに盛り込まれている。それだけでなく、彼女のスピード感にも驚くべきものがある。緊密に仕事をしてきたプロデューサーのロブ・ビセルとカーター・ラングは、SZAが複数の代表曲の歌詞——「Ghost in the Machine」と「Kill Bill」のサビ、そして「Snooze」など——をたった20分で書き上げたと明かす。ラングは、SZAの才能は言語だけにとどまらないと言い、彼女のことを最高峰のプロデューサーと絶賛した。「SZAは、自分の目的をわかっています。曲を構成する全要素を聞き分けることもできます。音楽はもちろん、インストゥルメンテーションも大好きです。それらが彼女の歌と作詞のモチベーションになっているのです」。




SZAは、自らの感情と独自性、ある人からは崇められ、ある人からは疎まれるそのカリスマ性に誰よりも敏感だ。まさにこれは、「内省的知能」の高さを証明している。そのせいだろうか、ささいなことにも影響されてしまう。たとえば、「Snooze」のMV撮影中に愛犬のピグレット(9歳のフレンチブルドッグ)が腹痛で苦しそうにしていると、自分も胃が痛くなるそうだ。おまけに彼女は、何かについて常に考え込んでいるようにも見える。そんなふうに考えてばかりいたら、不安になるのも無理はない。

私との時間が長くなるにつれて、「博物学的知能」と「身体・運動感覚知能」、そして「対人的知能」が高いこともわかってきた。大地や風への愛着に加えて、「Snooze」のMV監督としての献身的な態度と圧巻のダンス、そしてチーム内での立ち振る舞いが、それらを証明している。SZAの周りにいるすべての人が彼女を信じている。SZAの勝利は、チーム全体の勝利でもあるのだ。「SZAとの仕事は、私にパーパス(目的)を与えてくれます。それは、私のアイデンティティの一部でもあるのです」とラングは言った。

努力を重ねながら懸命に生きるSZAだって、ときには失敗する。文字通りトラクターから転落することもあれば、ステージ上でマズいパフォーマンスを披露したことも、思い通りのMVが撮影できなかったこともあった(特に「Good Days」のMVは気に入っていないそうだ)。それに加えて、少し前に恋人と別れたようだ。SZAは、元カレたちが自分を身勝手な女だと思っていると信じて疑わないし、自分が“いい子”ではないこともわかっている。だが、いつまでも落ち込んではいない。屈辱を味わいながらも、前に進むのだ。

Translated by Shoko Natori

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