SZAロングインタビュー 葛藤を歌うシンガーの新たな季節

失恋の痛み

グラミー賞を逃したことよりも、撮影の合間に一服するSZAを見ていると、失恋のほうにショックを受けているように映る。数年付き合った恋人と別れたばかりなのだ。『SOS』には失恋による心の痛みを歌った曲が数多く収録されている。そのなかでもお気に入りだという「Ghost in the Machine」は、その昔の恋人のことを歌った曲である。驚いたことに、その人とは婚約までしていたそうだ。

取材中もSZAは、元婚約者の詳細には触れず、ファッションデザイナーとだけ教えてくれた。11年(そのうち5年は婚約していた)付き合ったが、4年前に婚約を破棄したという。筆者は、頭のなかで素早く計算し、彼女が高校生の頃に付き合いはじめたと推測した。それに気づいたかのようにSZAは、「高校を卒業したばかりだった」と言った。


「Ghost in the Machine」では同じく第66回グラミー賞で注目を集めるフィービー・ブリジャーズ(ボーイジーニアス)をフィーチャー

SZAは「(ひとりの人と付き合わずに)ずっとフラフラしているのはイヤ」と語るいっぽう、過去に軽い気持ちで付き合った人がいたことも認めた。そのひとりがドレイクである。SZAがニューヨークにいた2008年頃のことだ。ふたりの関係は、ドレイクをフィーチャーした21サヴェージの「Mr. Right Now」によって明らかになったわけだが、これについて彼女は、「夢中とか、真剣すぎて重いとか、そういう関係ではなかった。若者同士のノリみたいなもの。ものすごく子供っぽい関係だった」と語った。

「境遇のせいか、常に自分のことを認めてくれる人、いつもそばにいてくれる人が必要だった。ひとりになったり自分の嫌な部分を直視させられたりするのが怖くて仕方がなかった」とSZAは振り返る。そう言いながら、女性がもっとも魅力的といわれる30代に長期的なパートナーと出会えないのではないかと心配する。まるで30代を超えると、その美しさが失われてしまうかのように。

「外見やその人のエネルギーがすべてじゃないことはわかっているけど、私も人間だから、どうしてもそういうことを気にしてしまう。理想の人と出会うときのためにも、これ以上歳をとりたくない。私がその人に恋をするように、私に夢中になってほしいから。でも、こういう考え方はそろそろ捨てないとね。きっと、歳をとったときの自分の外見が想像できないから、こんなに不安になるのかもしれない」


Photo by Gianni Gallant
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SZAが外見に自信を持てるようになるまで、長い時間がかかった。メイクにも助けられたし、メイクのおかげで自分の長所を引き立てる方法もわかったという。いまでは、ありのままの自分をある程度受け入れているようだが、その度合いも日によって変化する。彼女は、そうした気持ちを掘り下げることで、数多くの素晴らしい音楽をつくってきた。その一方で、自ら提示した「不安定な人」というアイデンティティとも格闘している。

「どうやら世間は、私のことを誤解しているみたい。『不安定さは、SZAのトレードマーク』と人は言うかもしれないけれど、それは違う。私はただ、自分の感情に正直なだけ。今度そんなことを言う人がいたら、お尻をひっぱたくからね」。

実際、SZAには自嘲的なところがある。まるで姉が妹をいじめるように、自分を嘲るのだ。だが、誰かが自分を傷つけようとすると、身を挺して妹を守る姉のように、憤然と立ち向かう。「誰かに傷つけられることもあるけど、泣いて許しを乞われることもある」と言い、次のように続けた。「不安定な自分がすべてじゃないことも、私が面白いと思えば、意図的に自分の脆さを表現できることもわかっている。強い人を演じられるのはかっこいいけど、個人的には感動しないかな。私は、自分の心を動かすことを歌にしている」

Translated by Shoko Natori

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