オリヴィア・ロドリゴが大いに語る、20歳の現在地と『GUTS』のすべて

PHOTOGRAPHY, PROP CONCEPT, AND COLLAGE CREATION BY JOHN YUYI

 

プロモーションのため初来日中のオリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)。世界中から熱い視線を注がれるなか、20歳の歌姫は2ndアルバム『GUTS』を通してまたひとつ大人になった。ローリングストーンUS版最新号のカバーストーリーを完全翻訳でお届けする。こちらは前編。

>>>後編に続く
オリヴィア・ロドリゴが語る『バービー』への共感、テイラー・スウィフトとの関係


大人になって見つけた自由

「見てみて! いま、縦列駐車できた!」オリヴィア・ロドリゴが興奮気味に言った。

ロドリゴと私は、カリフォルニア州ロサンゼルスのハイランド・パークの路上に駐車された黒いレンジローバーの車内にいる。プロデューサーのダン・ニグロのプライベートスタジオに到着したのだ。7月後半の某日、ロドリゴは丈の短い花柄のワンピースに茶色いレザーのロングブーツと、この時期にぴったりの服装をしている。手元の指輪がまぶしい。そんなロドリゴは、眉間にできたニキビのせいで落ち込んでいた。ここ半年間、「アキュテイン」というニキビ用の飲み薬を服用しているため、唇がいつも乾くそうだ。車用ドリンクホルダーの中でリップスティックやリップバームのケースが音を立てるのはそのせいだ。20歳のドライバーの車内としては、とりたてて珍しい点はない。車載モニターのカレンダーに表示された「ローリングストーン誌の取材」という文字を除いては。

縦列駐車と聞いて私は、500万回以上再生されたロドリゴの大ヒット曲「brutal」を思い出していた。いまから2年前、ロドリゴは“私はカッコよくないし、賢くもない/縦列駐車もできない”と歌いながら、怒りと不安を爆発させていた。そしてこの曲は、近年のポップス界でもっとも待ち望まれていたロドリゴのデビューアルバム『SOUR』(2021年)の1曲目を飾った。『SOUR』は、リリースからたった1週間で「Spotifyでもっとも再生された女性アーティストのデビューアルバム」の新記録を打ち立て、ロドリゴは半年足らずでディズニーのティーンアイドルから世界でもっとも共感を誘う人気ポップスターへと変貌を遂げた。グラミー賞3冠達成と人気TV番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』初出演に加えて、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われたビリー・ジョエルのライブにもゲスト出演し、ジョエルとデュエットを2曲披露した(「親戚のおじさんみたいな安心感」とロドリゴ)。グラストンベリー・フェスティバルでは、リリー・アレンと一緒にステージに立ってアレンの代表曲「Fuck You」を披露。中絶の権利を認める判決を覆した連邦最高裁を痛烈に批判した。2021年7月にはホワイトハウスを訪問し、若者たちに新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を呼びかけた。苦手だった縦列駐車も克服した。そんなロドリゴだが、すべてを手に入れたわけではない。

ロドリゴはいま、『SOUR』以降にさらされたプレッシャーに匹敵する、あるいはそれを凌駕するほどの凄まじいプレッシャーと戦っている。それを克服することが目下の最優先事項だ。9月8日、ロドリゴの2ndアルバム『GUTS』がリリースされた。「最初の頃は、本当に辛かった」とロドリゴは言った。「世間にどう思われるだろう?と考えずに曲を書ける気がしなかった。ピアノの前に座って、曲を書くことにワクワクしてるんだけど、気づいたら泣いていることもあった」

「2ndアルバムに取り組んでいるときの頭の中って、本当にカオス状態なんです」と語るのは、人気シンガーソングライターのケイティ・ペリー。2ndアルバム『Teenage Dream』(2010年)の制作中、まさにロドリゴと同じような経験をした。「デビューアルバムはそれまでの人生をすべて注ぎ込んでつくるのに、2ndアルバムは2年かそこらでつくらなければいけません。その間、『これでママに車を買ってあげられる』『やっと過去のストレスから解放された』のように、メンタル面での変化もあります。要するに、いろんな感情が渦巻くジャングルのような状態なんです」とペリーは言った。


PHOTOGRAPHY, PROP CONCEPT, AND COLLAGE CREATION BY JOHN YUYI
BODYSUIT: S/S 1998 GIANNI VERSACE BY DONATELLA COURTESY OF THEREALLIST. TIGHTS: WOLFORD. SHOES: 3JUIN

ペリーは、ロドリゴのメンター役を買って出た。「初めてオリヴィアに会ったとき、彼女の両肩に手を置いて『いい? 私はここにいる。だからいつでも頼ってちょうだい』と言いました。私は、オリヴィアのように若くしてポップスターの地位を勝ち取った女の子たちが、どんな経験をしているかよくわかっています。でも、私のときはそういうことを言ってくれる大人はいませんでした」

ロドリゴのもっとも近しい共作者である、元バンドマンのダン・ニグロも心の支えになってくれた。「ダンには『家に帰ってゆっくり休みなさい』って言われた」とロドリゴは振り返る。恐怖にも似たプレッシャーを克服するため、ふたりは一緒に食事をして一息ついた。ハンバーガーや台湾料理が多かったが、出かけるのが面倒な日はファストフードチェーンのタコスを食べた。「『GUTS』をつくっている間は、本当によく食べた」とロドリゴは冗談混じりに言った。食事のほかにも、ニグロの1歳の娘に会いに行くこともあった。その度にベビーフードを味見したり(「おいしくてビックリした!」とロドリゴ)、かわいい洋服をプレゼントしたりした。「スランプの特効薬になってくれた」とロドリゴは振り返る。

ポップ・パンク色の濃いエネルギッシュな曲や、じりじりと胸を焦がすスローテンポな曲を集めたかのような『GUTS』は、『SOUR』が描いた失恋をロドリゴが乗り越え、すべてをさらけ出すワイルドで自由な20歳として、ようやく人生を楽しめるようになったことを表している。多幸感に満ちた「all-american bitch」で、“ポケットの中に太陽が入ってる/本当だよ”とポジティブな気持ちを歌ったかと思えば、「get him back!」では、“彼は自己中心的で短気で、目が泳いでた/身長188センチって自慢してたけど、だからなんなの?”と辛辣な歌詞で笑わせてくれるのだ。

「遊び心があるというか、あまりシリアスすぎないアルバムをつくりたかった」とロドリゴは言う。だが、多くのファンが『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』の共演者ジョシュア・バセットとの破局から『SOUR』が生まれたと思っていることも知っている。「確かに前作は、失恋を歌ったアルバムだった。残念なことにね。そうならないように努力したんだけど、結果としては失恋アルバムになってしまった。でも最近は、前よりも幸せ。何もかもがわりとうまくいってる。だから、胸の痛みを歌うバラード集にはしたくなかった」と語った。

“17歳の自分にうんざり/私のTeenage Dreamはどこにいったの?”(「brutal」より)と歌って全米の注目を集めたロドリゴは、いまでは大人の女性だ。先日、ニューヨークのグリニッチ・ビレッジにあるアパートメントを買い、ニューヨーカーの仲間入りを果たした(一部の報道によると、そこで南京虫と格闘した)。それについてロドリゴは「ひとり暮らしってすごく怖い。誰かに殺されたり、幽霊に呪われたりするんじゃないかって、いつもビクビクしてる」と言った。ニューヨークのアパートメントとは別に、いまでもビバリーヒルズに家を借りている。最近は、ロス・フェリズというエリアにも家を買いたいと考えている。「半分は東海岸、もう半分は西海岸」と、ニューヨークとカリフォルニアを行き来する生活について語った。「だって、ニューヨークにずっと住むなんて想像できる? 車がある生活が大好き。新しい曲を聴くときは、いつも車の中。これ以上最高の場所はないから」

ロドリゴは、来年の2月20日に21歳の誕生日を迎える。「バーカウンターに座って見ず知らずの人に話しかけられるって想像しただけで、最高に思えてくる」と言う。『GUTS』は、ロドリゴが見つけた新しい自由を描いた作品だ。「このアルバムには、大人になって世界と自分の関係性を知り、それに戸惑いながらも成長する気持ちが集約されている。私自身、自分が飛躍的に成長したと実感してる」とロドリゴは言った。

Translated by Shoko Natori

 
 
 
 

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