ウィルコのジェフ・トゥイーディーが語る人生観、ディランやボン・ジョヴィに思うこと

ジェフ・トゥイーディー(ILLUSTRATION BY MARK SUMMERS)

最新アルバム『Cousin』を携さえ、11年ぶりのウィルコ単独来日ツアーを2024年3月に開催するウィルコ。3作目となる新著の発表も控えるなど、クリエイティブで実りある時期を迎えているジェフ・トゥイーディーが、最新の音楽を聴く理由、高価なギターの収集癖などについて語った。

ジェフ・トゥイーディーはもともと、自伝を発表する気は毛頭なかった。「僕は何か面白いものを書けるはずだって、出版社の人間から話を持ちかけられたのが始まりなんだ」。5年ほど前に交わした会話を思い出しながら、彼はそう話す。「『じゃあやってみます』って安請け合いしちゃったんだよ」。そのやり取りが発端となり、2018年に出版された『ジェフ・トゥイーディー自伝 さあ、行こう。ウィルコと音楽の魔法を探しに』は大きな反響を呼んだ。その2年後に発表された、誰もが持っているクリエイティビティの発揮を促す『How to Write One Song』もベストセラーとなった。そしてこの秋、彼は3作目となる『World Within a Song: Music That Changed My Life and Life That Changed My Music』を発表する(11月7日発売)。

同作では各章で特定の楽曲を取り上げ、スピリチュアリスト界隈のクラシック「Satan, Your Kingdom Must Come Down」からロザリアの「Bizcochito」まで、ジェフが知見に満ちた持論を展開している。そのセットリストは、イリノイ州南部で過ごした幼少期の思い出、アンクル・テュペロの活動初期のエピソード、そして約30年間に及ぶウィルコのリーダーとしてのキャリアまで、ジェフのパーソナルな物語を交えながら描かれる。どこまでも真摯でほろ苦い同作は、彼史上最もクリエイティブなノンフィクションと言っていいだろう。

「執筆っていうのは記憶を辿る行為なんだ」とジェフは話す。「心の奥深くを覗き込んで、どこかに隠れてしまっている記憶を呼び起こす。文章を書くことにはそういう力があるんだよ」。

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作家としての存在感を増していく間も、ジェフはウィルコとしての活動に精力的に取り組んできた。2枚組の大作『Cruel Country』からわずか1年半となる9月29日に、バンドは13枚目のアルバム『Cousin』をリリースした。ウェールズが生んだアートポップ界の奇才ケイト・ル・ボンがプロデュースした(バンドが外部プロデューサーを迎えるのは実に10年以上ぶり)本作は、型破りな器楽編成、ニュアンスに満ちたテクスチャー、そして豊かな感情表現に満ちた快作だ。

「僕は彼女のレコードが大好きだし、ここ何年かで仲良くなったんだ」。そう話すジェフとル・ボンの出会いは、2019年にウィルコが主催するSolid Soundフェスティバルに彼女が出演した時だった。「僕らも彼女も、いろんなアイデアを試してはバラバラにし、また組み立て直すっていうプロセスに積極的だった。ウィルコらしいサウンドだけど、過去のどのレコードとも似ていないと思う。長くやってきた僕らの今の目標は、そういう作品を作ることだったんだ」

バンドが実りの季節を迎えるなか、ジェフは本誌にその人生や音楽、宗教観、依存症の克服などについて語った。



―これまでに他人からもらった最高のアドバイスは?

ジェフ:バンドを始めたばかりの頃、僕らはザ・バンドと一緒にツアーを回った。Arkansas Travelerツアーで、ミシェル・ショックトとアンクル・テュペロが同行したんだ。僕らのリハーサルの最中に、唐突にステージに上がってきたリック・ダンコからこう言われたのを覚えてる。「君の歌からは必死さが伝わってくる。歌い手は常に必死であるべきなんだ。絶対に失うんじゃないぞ」。分かりにくいけど、僕は彼の言わんとしたことに100%同意できる。それは余裕がないってことではなくて、何がなんでも相手と繋がりたいっていう気持ちのことだと思うんだ。それこそが僕らが歌う理由だからね。

―新著では、ビリー・アイリッシュやロザリアなど、最近の様々なヒット曲が取り上げられています。最新の音楽に対してオープンであるために、何か心掛けていることはありますか?

ジェフ:必ずしも興味を持っているわけではなくとも、アンテナを張っておくことは音楽の作り手として一番大切なことだと思うんだ。予想できない何かに出会うことで、僕は自分の一部を鼓舞し続けていたい。絶えず後ろに進み続けたとしても、毎日必ず新しい何かを発見する。僕が子供の頃は、雑誌とかで知った曲をその場で今すぐ聴けたらいいのにっていつも思ってた。いろんなものを聴くことで、あの頃の自分を忘れずにいられるんだよ。

―これまでの人生で一番の無駄遣いは?

ジェフ:感じ悪いのは承知で言うけど、僕はものすごく気に入った楽器は2つ買わないと気が済まないタチなんだ。そういう理由で僕はいろんな楽器を2つ持っているんだけど、どれもお気に入りだよ。愛用しているギターが壊れたり、さほど好きじゃない楽器に慣れなくちゃいけない苦労を経験した上で、僕なりに考えた解決策なんだ。浅はかだとは思うけどね。

―『ティム・ロビンソンのコントシリーズ』でボブ・オデンカークが演じたキャラクターみたいですね、「3台持ちがベスト(Triples is best)」。

ジェフ:あれはまさに僕だよ。68年製のGibson Doveは3本持ってるんじゃないかな。

―話を著書に戻しましょう。ある章であなたは我慢ならない曲としてボン・ジョヴィの「Wanted Dead or Alive」を挙げ、「こんなロクでもない曲は聴くべきじゃない」と主張しています。どこかで彼らと鉢合わせたらどうしますか?

ジェフ:ジョン・ボン・ジョヴィとは会ったことがあるよ。僕が彼のことを悪く言うのは、これが初めてじゃないんだ。カナダのとあるTV番組に出演した時に、司会者から「スティーヴ・ジョブスが音楽を破壊したという、ジョン・ボン・ジョヴィの発言についてどう思いますか?」と聞かれて、僕は「音楽を破壊したのはジョン・ボン・ジョヴィだ」って答えた。そんな質問、目の前にボウリングのピンを置かれるようなものだろ? 倒すなっていう方が無理ってもんだよ。彼と会った時、番組を観てないかもしれないと思ったから、僕はそう言ったことを自分から伝えたんだ。

この本の他の題材と同じように、本質的には全部僕自身についてなんだよ。常にフェンスに向かってスイングするような人の自信がどこから来ているのか、僕には理解できないというだけのことさ。

Translated by Masaaki Yoshida

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