ウィルコのジェフ・トゥイーディーが語る人生観、ディランやボン・ジョヴィに思うこと

宗教観、依存症の克服、ディランへの「失望」

―子供の頃のあなたは宗教に懐疑的だったものの、大人になってからユダヤ教に改宗しました。ユダヤ教の慣習や信仰は、今のあなたの暮らしにどういった影響を与えていますか?

ジェフ:うちの家庭は基本的には普通だよ。大祭日の催しに参加したり、セデル(過ぎ越し祭りの聖餐)をしたりする程度さ。僕らはコミュニティの一員として受け入れられているし、その温もりを感じてもいる。妻が癌と診断された時がそうだったけど、身内だけでは賄えないサポート体制があるっていうのは心強いよ。家族や友人が点だとすれば、コミュニティは面なんだ。

それは妻とコミュニティのメンバーの間柄から理解したことの一つで、彼女がロッククラブを運営してた頃は特に頼もしく感じてた。ロックバンドに入ってるユダヤ人なら、きっと誰でもすぐアットホームに感じられると思う。同じ讃美歌を知ってるわけだしね。「僕があんな風に歌えるのは『ギリガン君SOS』(60年代に放映された米コメディドラマ)のテーマソングくらいじゃないか」なんて当時は思ってたよ。

―2004年に痛み止めの依存症でリハビリ施設に入って以来、あなたは約20年間その克服に取り組み続けています。最近ではどの程度意識する必要を感じていますか?

ジェフ:軌道から外れないよう、日常的に意識しているよ。それほど辛くはないんだ。崖っぷちに立たされているっていう感覚は、この数年でかなり薄らいだから。僕は腰にひどい骨関節炎を患っていて、今もかなりの痛みを感じているんだけど、それが自分の体にどれほどの影響をもたらすか、下手をすれば命を落とすとも知らずにオピオイドを投与していた時期を乗り越えられたことには、今も毎日感謝している。痛みと向き合い、受け入れることができている今の状況を、心の底から幸運だと感じているんだ。

最近はこれまで以上に意識してる。もう長いこと断っているドラッグの夢を時々見るんだよ。そういう考えを夢の中に留めておくことができていて、自分は本当に幸運だと思ってる。


ウィルコ(Photo by Peter Crosby)

―今回の本では感情面の痛みも数多く描かれていて、あなたが「無視を決め込んだままの世界」で生きる「たくさんのことを深く感じる」繊細な少年だった頃のことが綴られています。大人になったことで、その痛みは和らいだのでしょうか? この世界の残酷さに、あなたはどう向き合っていますか?

ジェフ:完全に慣れてしまいたくないとは常に思ってる。僕はただ、生きていくために自分自身を思いやる方法を学んだだけだ。誰かの力になりたいし、良いことをしたいという思いはあるよ。自分が手に入れたものを享受する資格のある人間だって思えるような行いをしたいと思ってる。そういう責任を感じているんだ。僕は自分の好きなことを生業にできている、極めて稀な人間の一人だから。何かしらの形で還元すべきだって考えない方がおかしいんだよ。

―ウィルコの新作に収録されている「Ten Dead」では、銃乱射事件のヘッドラインについて歌っているように思えます。この曲にはどういう意図が込められているのでしょう?

ジェフ:あれは今の世の中に生きる人間として、アルバム1枚を完成させる上で自覚せざるを得ない心情を指している。背景の一部分に過ぎなくて、明確な政治的ステートメントではないんだ。僕が知っている人の大半が直面しながらも、受け入れられずにいる心象風景を描こうとしたと言うべきかもしれない。それは目を背けたくなるようなものだよ。誰かが「死人は10人にとどまった」って口にするのを、僕は実際に耳にした。「10人程度で済んでよかった」っていう意味のことを人が口にできてしまう現状に、僕は我慢ならないんだ。



―あなたはボブ・ディランをヒーローの一人として挙げています。彼も昨年、自身にとって大きな意味を持つ楽曲を列挙する構成の著書を発表しましたが、読まれましたか?

ジェフ:この本を執筆することは既に決めていたから、彼の本が発売された時は少し戸惑ったよ。読んだけど、特に似ているとは思わなかった。根底にあるアイデアがまったく違うからね。正直に言うと、少し失望したんだ。相手を受け入れると同時に突き放すようなところは、すごくディランらしいとは思う。『Theme Time Radio』を裏で支えてた男性が書いたんじゃないかって疑いたくなる部分もあったけどね(編注:ボブ・ディランがDJを担当した同ラジオ番組のプロデューサー、エディー・ゴロデツキーのこと。『チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ』や『ダーマ&グレッグ』の制作で知られ、ディランが2022年に発表した著書のコンサルタントを担当)。

―伝説的ソングライターといえば、あなたは著書で『星条旗』に代わるアメリカ国歌をスティーヴィー・ワンダーに作らせるべきだと主張しています。素晴らしいアイデアだと思いますが、なぜご自身ではないのでしょうか?

ジェフ:(笑いながら)僕とスティーヴィー・ワンダー、君はどっちに書いてもらいたい?

From Rolling Stone US.




WILCO JAPAN TOUR 2024
2024年3月7日(木)東京・Zepp Haneda(TOKYO) *1Fスタンディング、2F指定席SOLD OUT
2024年3月8日(金)大阪・Zepp Osaka Bayside *2F指定席SOLD OUT
サポートアクト:フィノム(Finom)

※東京公演完売につき、2Fスタンディング・チケットを追加発売
発売日:2023年10月28日(土)10:00〜
※大阪公演1Fスタンディングのチケット発売中

詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4018


ウィルコ
『Cousin』
発売中
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Wilco_Cousin
ウィルコ特設サイト:https://www.110107.com/Wilco_cousin

Translated by Masaaki Yoshida

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