ジョン・ボン・ジョヴィが語る、2020年のアメリカと白人であることの葛藤

ジョン・ボン・ジョヴィ(Photo by Ash Kelleher)

ボン・ジョヴィが通算15枚目のニューアルバム『2020』を10月2日に発表した。アメリカ大統領選が行われる本年の西暦をタイトルとした本作は、当初5月にリリース予定だったが一旦延期し、新型コロナウイルスの感染拡大やブラック・ライヴス・マターなど社会的問題と向き合いながら、ソングライティングの幅広さと深みが際立つアルバムに仕上げられた。かつてなくシビアだった制作背景を、リーダーのジョン・ボン・ジョヴィが明かす。


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ジョン・ボン・ジョヴィはマンハッタンの自宅のオフィスに腰かけていた。彼の肩越しに、背後の窓からニューヨークの摩天楼が見える。手榴弾からポップアート風のフォントで「POWER」の文字がスプレーされているシェパード・フェアリーのシルクスクリーンが、額装されて壁に飾ってある。窓ガラスには1ワールド・トレード・センターが映り込んでいた。

この日は9月11日。58歳の彼はいつものようにフリーダムタワーまで走ってきたところだった。そう遠くない場所では、9.11同時多発テロ事件の19回忌式典にマイク・ペンス副大統領とジョー・バイデン候補が現れるのを待つ人々が国旗を振っていた。あえて白髪を隠さないジョンは、色あせた黒いTシャツ姿で、左手首には時計とスマートウォッチをはめていた。Zoom取材――2020年の常識――のためにコンピュータの画面に身を乗り出し、これまでリリースしたアルバムとは一味違う15作目について語り始めた。

『2020』と題したアルバムは、銃乱射事件(「ロウワー・ザ・フラッグ」)から偽情報(「ブラッド・イン・ザ・ウォーター」)、警察による暴力(「アメリカン・レコニング」)、今も進行中のパンデミック(「ドゥ・ホワット・ユー・キャン」)にいたるまで、世の中の出来事を真正面からとらえている。一部のファンにとってはすんなり受け入れにくいだろう。パーティの定番ソングやパワーバラード、ヘアスプレーの代名詞だった殿堂入りバンドの昔懐かしい姿とはまるで違う。今では新型コロナウイルスについて歌い、バンドリーダーはステージ上で両手を振り上げる代わりに、困窮する人々のための地元レストラン、JBJソウル・キッチンで皿洗いをしている。

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慈善活動で知られるジョンは、外出規制が始まってから最初の数週間、妻ドロシアと共に、自身の財団が運営する米ニュージャージー州レッドバンクの「JBJソウル・キッチン」で、困窮している人々に食事を提供。夫妻はその後、食料を必要とする地元の人々の需要に応えるべく、ロングアイランドのイーストエンド地区にフード・バンクを開設した。

「2020年の3月から9月にどんな生活を送っていたのか、きっと誰も忘れられないだろう」。ソーシャルディスタンスやPPE、ワクチンをずばり表現したCOVID-19の曲を書こうと決めた理由について、ジョンはローリングストーン誌にこう語った。「スペイン風邪の再来さ。だが誰一人、君も俺も、親世代も100年前にはまだ生まれてなかった。あの時の状況が今起きている。これは肩パッドやヘアスタイルの曲じゃない。いまの時代をとらえた曲なんだ」

数あるバンドの中でも労働者階級色の強いジョンは、荒涼とした「アメリカン・レコニング」で警察の暴力や人種間の不平等にあえて深く踏み込んだ。当初は「I can’t breathe」(息ができない=ブラック・ライヴズ・マター運動と関連付けられるスローガン)というタイトルだったが、31年間連れ添った妻のドロシアに聞かせたところ、レコーディングするには物足りないと忠告された。何度も手直しを加えてバンドに聞かせたが――メンバーの反応にも驚かされた。

ジョンは白人の特権(White Privilege)、間違って解釈されたコリン・キャパニックのメッセージ、社会問題に鋭いメスを入れる彼にいら立つファンについて、包み隠さず語ってくれた。「奴は口うるさいから、あいつらのレコードは焼いてしまえ、なんて心無いことをいう人は……結局、最初から俺たちのことを好きじゃなかったのさ」

Translated by Akiko Kato

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