性犯罪者エプスタイン被告の自殺を招いた「重大な過失」とは? 米

生前の大富豪ジェフリー・エプスタイン被告、未成年少女と性的行為に及んだとして有罪判決を受けた(RICK FRIEDMAN//CORBIS/GETTY IMAGES)

128ページにわたって詳細につづられたアメリカ司法省(DOJ)の報告書には、2019年にニューヨーク州メトロポリタン矯正センター(MCC)に収監されていた故ジェフリー・エプスタイン被告の自殺を招いた「数々の重大な過失」が記載されている。同年7月6日、性的人身売買を行って14~15歳の少女数十人を暴行したとして金融家エプスタイン被告が連邦起訴・逮捕され、8月10日に他界するまでの時系列を追っていくと、DOJが言うところの「人員不足、自殺が懸念される受刑者の管理、作動していた監視カメラの状態、(連邦刑務所局(BOP)の)ポリシーおよび規則の管理不行き届きと度重なる違反といった運営上の問題」が浮かび上がってくる。

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7月7日、当局はエプスタイン被告を特別監視棟(SHU)に勾留した。そこでは職員が30分おきに受刑者の見回りをすることになっていた。同月9日、MCCの精神専門家が受刑者の精神鑑定を公式に行った。被告本人が自殺志向を否定したため、専門家は危険性なしと判断した。7月18日、判事はエプスタイン被告の保釈を棄却し、勾留継続を命じた。

7月23日、エプスタイン被告が監房でオレンジ色の布を首に巻き付けているのを看守が発見。同房者が職員に伝えた話では、被告は首を吊るつもりだったという。被告は翌日まで自殺監視下に置かれた。また同房者に殺されそうだと主張したため、7月30日まで精神科医の観察下に置かれた。

8月8日、エプスタイン被告は弁護士と遺産分割協議書の草稿を作成したが、MCC職員はこの件を被告の死後まで知らなかった。その翌日、当局は同房者を別の施設に移送し、エプスタイン被告は単独で収監された。同じ日、連邦第2巡回控訴裁判所は2000ページに及ぶ資料を公表し、エプスタイン氏の知人ギレーヌ・マックスウェル被告が10年間にわたり、被告と共謀して未成年少女の人身売買に関与していたと発表した(マックスウェル被告は2021年12月に有罪判決を受けた)。

その日MCC職員はBOPの規則に反して、エプスタイン被告に傍受・録音のない通話を認めた。被告本人は母親に電話すると主張していたが、母親はすでに他界していた。のちに当局は、電話の相手が被告と親しい間柄だったことを知った。

午後8時、エプスタイン被告は単独で監房に戻された。MCC職員は監房内部の点検をしなかった。DOJの報告によると、「エプスタイン被告の死後に監房を捜索したところ、受刑者用の毛布、シーツ、衣服が大量に保管され、一部を引き裂かれて首つり縄が作られていたことが発覚した」。またMCCのSHU職員は受刑者の点呼を午後4時以降行っていなかったばかりか、夜10時40分以降は30分おきの見回りも行っていなかった。DOJによると、当直職員は「虚偽の」報告書を作成し、あたかも職務を全うしていたかのように見せかけていたそうだ。

エプスタイン被告の遺体がようやく発見されたのは8月10日の午前6時30分、配給係のマイケル・トーマス氏が朝食を配ろうとしていた時だった。呼びかけても被告が応じなかったため、トーマス氏は助けを呼んだ。「トーマス氏が監房に入ってみると、シーツかシャツでこしらえたと思しきオレンジ色の紐がエプスタイン被告の首に巻き付けられ、二段ベッドの上段に括りつけられていたと(DOJ監視官に)語った」と報告書にはある。「エプスタイン被告は腰を下ろすような姿勢で二段ベッドからぶら下がり、臀部は床から1~1.5センチほど浮いていた」という。

「トーマス氏がすぐさま二段ベッドからオレンジ色の紐を引きちぎると、エプスタイン被告の臀部が床に落下した」と報告書は続く。「トーマス氏は被告の遺体を床に下ろし、心臓マッサージを始めた。約1分後にMCC職員が到着。ほどなく刑務所外部の医師が到着し、蘇生措置を交替した。最終的に被告は地元病院に搬送され、そこで死亡が宣告された」。8月11日、検視官はエプスタイン被告の死因は首吊りによる自殺と断定された。

Akiko Kato

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