ROAD&SKY・岩熊信彦が語る、浜田省吾の伝説のライブ渚園が生まれた理由



田家:映画を拝見してて、改めてこの映画は80年代の浜田さんの集大成のような気がしたんですよ。

岩熊:実際に浜田省吾第3章の完結編みたいな感じのアルバムなんですよね、『FATHER'S SON』っていうのは。

田家:そういう意味では岩熊さんの中での88年当時の浜田さんの一番の輝きってどんなもんだったと?

岩熊:おそらく『FATHER'S SON』のアルバムは充実した時代でもあったと思うんですよ。もちろんお父さんを亡くした時だから『FATHER'S SON』というちょっとテーマは重たいんですけど。でも『DOWN BY THE MAINSTREET』『J.BOY』『FATHER'S SON』と彼が確立したアルバム、もしくは生き方をした年代なんだろうなっていう気がします。

田家:「DARKNESS IN THE HEART」は、そういう意味では彼の心の中みたいなものを歌われた曲でもあるわけですよね。



田家:先週の板屋さんの話の中にもあったんですが、映像のハイライトと言っていいでしょうね。映画の中では13曲目「僕と彼女と週末に」。あの曲のエピソードをお聞きしなければいけない。

岩熊:あの曲には僕のいろんな人生が詰まってるので、一言でもなかなか言えないんですけど。渚園ではステージ後ろのセットが、幅40何m、高さ23mぐらいのセットか真ん中から割れるんですね。

田家:巨大なイントレが割れました。そこから巨大な白い物体が現れてくる。

岩熊:ものすごい重量なわけですよ。あの高さと幅の機材っていうのは。下にレールを作って開けるんですけど、まず舞台を全部組んで、1回テストで動かしたんですよね。そしたらパキパキパキッと滑車が割れていくわけですよ。途中で止まるわけです。それ以上うんともすんともいわない。それで新しい滑車を徹夜して作ってきてもらって。またジャッキで全部あげて滑車を付け替えて、前日19日のリハーサルで、もう1回本番と同じようにリハーサルやったわけです。そしたらまた同じようにバキバキって割れてひびが入り動かない、また途中で止まってしまったんですよ。これどうするってことになって。もうこれは一つの鉄をくりぬいて滑車を作るしかないということで、また全部徹夜でやってもらって。全部付け替えて、ぶつけ本番です。でもね、開いた瞬間は、僕はもう本当に驚いたっていうか感動しましたね。

田家:その開く瞬間をご覧になっていただくための映画なのかもしれません。82年のアルバム『PROMISED LAND 〜約束の地』から「僕と彼女と週末に」。これはじっくり映画館で映像とともにお聞きいただけたらと思います。MCのときの映像とか、高さ22.2mのステージが割れて中から白い物体が出てくるときの映像。謎の物体、白い物体。今はもう誰が見ても、あれは原子力発電所だとわかりますけど、当時はそういうふうに説明してなかったですよね。

岩熊:してませんでした。元々僕たちが語るものではないと思っているので、それぞれ観客の皆さんがどう捉えるかっていうことだと思うんですよね。ただ『PROMISED LAND 〜約束の地』の歌詞、特に「僕と彼女と週末に」の歌詞を見ると何を言ってるかは容易に理解できると思うんですよね。なのであえて僕たちからはこれは言いませんでした。元々この曲をどう作るかというのが一番最初の僕の出発点なんですよ。

田家:この歌をどう見せるかっていうところから始まってる。

岩熊:そういうことです。この歌をどう演出して見せるかっていうのが僕の出発点。それから後付けでステージをこうしよう、照明どうしよう、PAどうしようということにいくわけですよ。だからこの曲は本当の肝の肝の曲で、特に「A PLACE IN THE SUN」には外せない曲だなって僕は思っていますね。このアルバムを聞いて、僕は浜田と仕事がしたい、君と仕事するんだと思って、それまでにいた会社を辞め、浜田本人に一緒にやろうよって言ってROAD&SKYを作ったんですよね。当時のマネージャー高橋信彦、プロデューサーの鈴木幹治と3人で作ったんです。僕の人生を大きく変えたアルバムだし、1曲なんですよ。

田家:それを今こうやって映画館で見ることができるわけで。

岩熊:そういう意味では、いろんなアーティストがいろんなコンサートをやって、おそらくいろいろ訴えたいことがあるんだと思うんですよね。それをみんな見ていていただきたい気持ちはあります。ただ僕たちはそれを押し付けたりとかしたくない。

田家:この「僕と彼女と週末に」の後に「愛の世代の前に」が続くわけで、この2曲だけでも一つのメッセージというのが伝わるんではないかと。今日最後の曲は、やはり世代という言葉が使われてる曲です。80年のアルバム『Home Bound』の中の「明日なき世代」。渚園のライブで。

Rolling Stone Japan 編集部

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE