ミーガン・ザ・スタリオンが語る、負けられない理由

ミーガン・ザ・スタリオン(Photo by Ramona Rosales, Bodysuit by House of JMC. Choker by Laurel DeWitt Earrings by Alexis Bittar)

ラッパーのミーガン・ザ・スタリオンは、いまやラップだけでなくポップカルチャー界に君臨する女王のような存在だ。パワフルなオーラを放つ彼女だが、その心は喪失感や暴力、裏切りによって揺れている。米ローリングストーン誌No.1365/1366号のカバーを飾ったミーガンのインタビューでは、かつてないほどオープンに自らの心の内を明かす一方で、2020年7月の銃撃事件とその後について語ってくれた(註:2022年12月、ミーガンを撃って起訴されていたトリー・レーンズに有罪判決が下された)。

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母親と曽祖母の死

わずか数年の間に、テキサス州ヒューストン出身のミーガン・ジョヴォン・ルース・ピートは、仲間内のパーティやストリップクラブなどで活動する地元のラッパーから“ミーガン・ザ・スタリオン”という音楽業界屈指の大型新人へと成長した。スターダムを駆け上がったミーガンは、「ジー・ホッティーズ」と呼ぶ熱烈なファンに支えられている。そんなミーガンを悲劇が襲った。2019年3月に母親が急逝したのだ。「ホリー・ウッド」というステージネームで活動していたラッパーの母親は、ミーガンにUGKやノトーリアス・B.I.G.といったヒップホップアーティストの素晴らしさを教えただけでなく、のちにマネージャーとして彼女を支えた人物だ。死因は脳腫瘍だった。そのわずか2週間後にミーガンの曽祖母も他界した(父親のジョセフ・ピート・ジュニアは、娘が8歳になるまで服役していた。出所後は一緒に暮らしたが、ミーガンが15歳の時に死亡している)。

現在27歳のミーガンは、母親と曽祖母というかけがえのない存在を相次いで失った。それでも独力でスーパースターの道を歩み続ける傍ら、テキサス・サザン大学を無事卒業した(健康管理学の学位を取得)。それだけでなく、2020年7月の衝撃的な銃撃事件にもひとりで向き合った。発砲したのは、ラッパーで元友人のトリー・レーンズと言われている。命に別状はなかったものの、それ以来ミーガンは法廷だけでなく世論とも戦ってきた。

銃撃事件によるストレスがなかったとしても、ヒップホップ界の“イットガール”ないし現存する最高峰のラッパーとして生きることは、神経を四六時中張り詰めることでもある。私が取材した3カ月間だけでも、ミーガンはアメリカンフットボールの頂点を決めるスーパーボウルのCMに初登場し、女優として初めて演技に挑戦し、映画にも出演した。デュア・リパとのコラボシングル「Sweetest Pie」をリリースしただけでなくツアーにも参加し、女性ラッパーとして初めてアカデミー賞授賞式でパフォーマンスを披露した。グラミー賞最優秀新人賞のプレゼンター(2021年に同賞を受賞)を務める一方で、コーチェラ・フェスティバルで圧巻のパフォーマンスを披露。ファッションの祭典として知られるMETガラではゴージャスなドレスをまとってレッドカーペットに登場し、ビルボード・ミュージック・アワードでもパフォーマンスを行なった(「トップ・ラップ・女性アーティスト賞」を受賞しただけでなく、ファン根性丸出しのスーパーモデル、カーラ・デルヴィーニュに一晩中つきまとわれた)。それに加えて、待望のニューアルバムの制作とレコーディングがほぼ完了していることも忘れてはいけない(註:アルバム『TRAUMAZINE』は2022年8月12日にリリースされた)。「リスナーには、いろんな感情を体験してほしい」と、ミーガンはニューアルバムについて語った。それは、自分の力を見失わずに痛みを消化するためのプロセスでもあるのだ。「最初は腰を振って踊っているかもしれないけれど、次の瞬間は涙を流しているかもしれないから」とミーガンは言う。



友人やチームの仲間などの頼れる存在はいるものの、いまだに夜な夜な銃撃事件の悪夢にうなされると明かした。「いまは苦しい時期だけど、大丈夫。あなたなら乗り越えられる」と、ミーガンは自らを鼓舞する。「神様は、私のために何かいいことをきっと用意していてくれるはず。だって、ご褒美がないのに私にこんなことを経験させるなんて、あり得ないと思うから」

ビバリーグローブやビバリーヒルズといったロサンゼルス屈指の高級住宅街を通り抜けて、私たちはベルエアの大邸宅に到着した。ここは、コーチェラ・フェスティバルの1カ月間ミーガンのホームとなる場所だ。広々とした邸では、人々が忙しなく行き交う。そびえ立つ真っ白な壁が少し冷たい印象を与える。部屋の隅々には、さまざまな袋や箱が積み上げられている。ここでは、ミーガン・ザ・スタリオンというマシンのメンテナンスを任された数人のスタッフが静かに仕事をこなしているのだ。灰色のフレンチブルドッグのフォーとオニータが挨拶代わりに犬小屋から吠える(ほかにも犬3匹とトカゲを飼っている)。無邪気で愛情深いペットたちは、ミーガンをリラックスさせてくれる。「この子たちが私を傷つけることはないと思う」とミーガンは言う。「それだけは確かね」

ミーガンと私は、4人のスタッフと一緒に洗練された内装のダイニングルームに通された。6人分のテーブルウェアがセットされた食卓につくと、専属シェフがベジタリアン用のコース料理で私たちをもてなす。シェフが生野菜の盛り合わせを運んでくると、ミーガンは「ちょっと、ほんと恥ずかしいんだけど」と、くすっと笑ってひとりごちた。

「何がですか?」と私が尋ねる。
「だって、こんなにかしこまっちゃってさ」

「普段は、もっとリラックスしているんですね」
「みんな楽しいことが大好きだから。でも、今夜はなんだか真面目くさった感じ」

シェフがミーガンの大好物のカボチャ料理をテーブルに置いていくと、ミーガンはその優しさを自慢げに口にした。大好きな人々をそばに置いておくのは、ミーガンの習慣なのだ。ミーガンが所属するロック・ネイション(註:ジェイ・Zが代表を務めるエンターテインメント企業)のチームや長年マネージャーを務めてきたT・ファリス、2018年以来ミーガンをカメラに収め続けてきたフォトグラファーでラッパーのエミリオ・クーチー、親友でヘアスタイリストのケロン、メイクとネイル担当の女性、大学の親友、高校の親友のカリーといった面々がいつもミーガンをそばで支えている。「南部人の特性かどうかはわからないけど、これが自分の家族だっていう感覚が大好きなの。ここが私の居場所。ここにいる限り、私は安全なんだって思えるから」とミーガンは言う。

Translated by Shoko Natori

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