ミーガン・ザ・スタリオンが語る、負けられない理由

ミーガンを支える「天使」

車の中やベッド、シャワーなど、ミーガンはありとあらゆる場所で曲を書く。「シャワーに入る時は、一応シャワールームの外にスマホを置くけど、何かあったら触れる場所には置いている。スマホをいつも濡らして壊しているけど、そんなことはどうでもいいの」とミーガンは語る。「シャワールームで曲を書くのは大変だけど、スピーカーの音量を上げながらフリースタイルでラップする。シャワーが終わったら、座って書き留めるの」。アルバム『TRAUMAZINE』の曲づくりには、かつてないほど時間をかけたという。現代最高峰のラッパーであるミーガンには、ミーガン・ザ・スタリオンとしてのレガシーを築き上げるという使命がある。「私はただ、みんなに自分のことを覚えていてほしいだけ。『ミーガン・ザ・スタリオンは最高のラッパーだった。あんなにクールでハードなラッパーは、後にも先にも彼女だけだ』みたいにね」

アルバムのレコーディングは、フロリダ州ノースマイアミのクライテリア・スタジオで行なわれた。ミーガンは、アレサ・フランクリンやフリートウッド・マック、AC/DC、リル・ウェインをはじめ、このスタジオでレコーディングを行なったレジェンドたちの仲間入りを果たしたのだ。3月上旬にミーガンのもとを訪れると、黒とチェリーレッドの髪をなびかせながら颯爽と出迎えてくれた。後ろからフォーとオニータが駆けてくる。ミーガンは上機嫌で、セクシーでスタイリッシュなヌード色のワンピースを着ている。私たちは、ダークブラウンのレザーが張られた回転椅子に並んで座る。目の前には、大きなPAシステムが一台。

ミーガンの名を世間に知らしめるきっかけとなったミックステープ『Fever』(2019年)の収録曲「Simon Says」以来ミーガンのエンジニアを務めているショーン・“ソース”・ジャレットがPAシステムの前に座り、アルバムのためにレコーディングした25~30曲を聴かせてくれた。ジャレットは親しみを込めてミーガンのことを「シス」と呼ぶ。冷めてしまった紅茶を温めてほしいと甘えるミーガンに対し、熱々の一杯を入れ直してくれるのもジャレットだ。

ミーガンは、「Gift & A Curse」によって華やかなダンスミュージックにパーソナルな側面が添えられたことをとりわけ誇らしく思っている。アルバムの収録曲候補5曲のうち、「Gift & A Curse」は私のお気に入りだ。マーダー・ビーツがプロデューサーを務めるこの曲には、緊迫感あふれるピアノと弾むようなベースサウンドが散りばめられている。ミーガンは、最初のヴァースで自らの独立性を主張すると、“私の体は私の選択/誰の言いなりにもならない”と、次のヴァースでは自らの性器を称えながらそれを自分の支配下に置いていると宣言する。



それに対し、“私みたいなビッチは自分の価値をわかっている/私とヤレることは恩恵であり呪いでもある”というヴァースの部分からはミーガンの思考が覗く。「自分の面倒は自分で見る。私はメンタル的にも強いし、自立しているから」と、ミーガンはのちに語った。「あなたを無視するのは簡単。だって、あなたなんて必要ないんだから」

それでも、自立心や強さといった資質が仇となることもあるとミーガンは認める。「強さは、私の才能でもある」とミーガンは続ける。「でも、そのせいで時々孤独になるの。だから、私にとっては呪いのようなものかもしれない。『君は大丈夫。君はしっかりしているから、ひとりでも大丈夫だね』みたいに扱われることもある。自分はもっと繊細な人間なのに、そういうふうに扱ってもらえないと感じるのは、そのせいかもしれない」

母親を失ったミーガンにとって、マネージャーのT・ファリスは彼女の音楽を批評できる希少な存在だ。私と同様にファリスは、「Pressurelicious」や「Plan B」、「Gift & A Curse」が好きだと語る。「特にこの3曲は、本当の意味でのパーティトラックではありません。どれもしっかりとした中身のある楽曲です」





もともとファリスは、テキサス州ヒューストンに拠点を置くインディペンデント系レコードレーベル、SwishahouseのA&R部門の責任者とアーティストのマネージャーを務めていた人物で、ポール・ウォールやマイク・ジョーンズといった地元ラッパーたちと緊密に仕事をしていた。ミーガンも、こうしたサウンドを聴きながら大人になった。ファリスのイチオシは「Plan B」。ミーガンが匿名の元カレに宛てた挑発的なこのディス曲は、コーチェラ・フェスティバルの最初の週末のステージで初披露された(ネット上ではレーンズに宛てた曲だという憶測が飛び交ったが、ミーガンはきっぱり否定)。「この曲は、リル・キムを想起させる、オールドスクールな印象を与えてくれました」とファリスは「Plan B」について語った。「ミーガンがステージに立ってラップする瞬間が大好きです。ミーガンの魅力は腰を振る挑発的なダンスだけではありません。世間には、ミーガンが正真正銘のラッパーであることを知ってほしいです」

ミーガンにとってファリスは単なるマネージャーというよりは、兄のような存在だ。「私が何を感じ、何を思っているかを的確に把握できる唯一の人かもしれない」とミーガンはファリスのことを口にした。「気分が上がっている時は、犬たちと一緒に走ったり飛び跳ねたりしてハッピーな気分を分かち合うの。悲しい時は『少しだけ、泣いていいよ。でも、また立ち上がって一緒にがんばろう。だって君は、ミーガン・ザ・スタリオンなんだから!』と言って、気分を盛り上げてくれる」

ファリスは、ミーガンの母親が信頼した数少ない人間のひとりでもある。だからこそ、ミーガン本人も彼に信頼を寄せている。2018年に300 Entertainmentというレーベルに移籍する前、ミーガンは1501 Certified Entertainmentというレーベルと契約を交わしていた。そこで働いていたのがファリスだった(2020年以降、ミーガンと1501 Certified Entertainmentは係争状態にある。ミーガン側は、同レーベルによる「受け入れ難い」契約に縛られていることに加えて、同レーベルがミーガンの契約満了を妨害しようとしたと主張。3月に同レーベルは、ミーガンはレーベルに対して音楽的ないし金銭的な義務を負っていると訴えた)。「昔からママは、簡単に人を好きになるタイプではなかった」とミーガンは言う。「そんなママがファリスに心を許した時は、この人は天使かもって思ったの」

Translated by Shoko Natori

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