三浦光紀が語る、ベルウッド・レコード創立の裏側とニューミュージックの真意



田家:さっきのドラムは林立夫さんでこれは松本さん?

三浦:そうですね。詩も松本さんですね。

田家:やっぱりこうやって聴くと違いますね。この曲を選ばれたのは?

三浦:曲そのものも名曲なんですけど、吉野さんのストリングスアレンジがすごいなと思って。日本のエンジニアと言うと、当時は理工学部出身の技術者イメージなんですよ。でも、アメリカを見てると、ほとんどミュージシャン出身で、日本の中でミュージシャン出身のエンジニアって当時は僕が知る限り吉野さんぐらいしかいなくて。東芝にいらしたんですけど。だから、もうミュージシャンの感覚でやってくれる。技術者だと「この音はあんまり入っちゃ駄目だ」とかそういう感じでやるんだけど、ミュージシャン出身だと、そのへんもミュージシャンのマインドになってるから全然違うんですよね。しかも吉野さんはピアノも上手いしストリングスアレンジもできるし。西岡恭蔵さんのソロアルバムのときもファンキーなピアノを弾いてもらってるし、何でもできる人なんですよ。吉野さんに対しての思いもあって曲を選びました。

田家:なるほどね。冒頭で音の問題、ベルウッドのやりたいことの中に音があったって。もう大瀧さんのこの3曲でそういうのが出てますもんね。

三浦:大学4年の時に卒論でベトナム戦争について書いたんです、まだ戦争の決着はついてなかったんですけど。なぜそれを書いたかというと、ディスコによく前田仁とか牧村くんを連れて行っていて、踊りがうまい黒人の方に話しかけていろいろ話してたら、その人が実は米軍の脱走兵だったんですね。それで今卒論を書いてるからって言ってベトナム戦争の話を聞いたんです。実際の戦争の話を聞いたら、とにかく怖いわけですよ。ゲリラ戦だから誰が敵か味方か分からないんですって。しかも夜にやるじゃないですか。だから行く時はコカインをやっていくんだと。それで帰ってくると、今度は眠れないからマリファナをやるんだって。普段はLSDをやっているんだっていう話を聞いて、68年ですから、それが何がなんだかよく分からなくて。「それは何なのか」って聞いたら、僕にLSDをくれたんですよ。その時、日本ではLSDは禁止されてなかった。何も知らないから、ポンッと口の中に放り込んだら今まで聴こえてこなかったバックの音が聴こえてくるんです。ドラムの動きとかベースが全部分かる。こんな世界があるんだと思ってびっくりして、その印象でレコード会社に入ってレコード会社の新譜を聴いたら音がちゃっちい。これじゃ駄目だと。LSDによって音楽の聴き方が全部変わっちゃったんですよ。でも、よく見るとそうやってLSDを買ってる人が世界中にたくさんいる。たぶんそれでベルウッド・サウンドっていうのを意識するようになったんだと思います。レーベル作った時にはサウンドがそのレーベルの文化だと思ったんですよね。

田家:LSDが開いてくれた世界への道。

三浦:扉を開いてくれた。

田家:なるほどね。ベルウッドの企画書の中にニューミュージックって言葉を使われたのは?

三浦:それは営業の方に「三浦さんのやっている音楽はフォークなのかロックなの何なの」って言われて「どうしたんですか?」って聞いたら、仕切り板というのが昔のレコードにはあったんですよね。そこにフォークのジャンル、ロックのジャンルがあって。当時フォークは、森山良子さんとかマイク眞木さんのイメージを抱いていたし、ロックっていうと僕の中では洋楽ですよね。一度裕也さんたちが英語で歌ったからそっち系だなと。

その2つともベルウッドとは全然違くて、そしたらたまたま机の上に『ニューミュージック』があったんです。当時は『ニューミュージックマガジン』だったんですね。それを見てから、とっさに「ニューミュージック」って言っちゃったんですよ。後でニューミュージックの意味を調べたら、1962年にボブ・ディランとビートルズがデビューして、それをニューミュージックってポール・ウィリアムズさんが呼んだんですね。やっぱり中村とうようさんは分かってて『ニューミュージックマガジン』にして、僕は当時、対抗文化的な意味でニューミュージックって言葉を使ったんですよね。前田仁からたまたま電話がかかってきて「三浦さん、ニューミュージックの商標登録してんの?」って言うから社内だけで使おうと思った言葉だから全然してないって言ったら「それを使わせてくれ」って言うから「どうぞ」って言ったら、ソニーが五輪真弓さんとかをベースにして、ちょっとおしゃれなフォークとかロックをニューミュージックって言うように広げていったんですね。

田家:なるほどね。来週もこの話の続きをよろしくお願いします。ありがとうございました。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE