旧統一教会の過激分派「サンクチュアリ教会」指導者が語る、ライフル銃崇拝の理由

外界から隔絶されて育った幼少期

亨進氏は、危険な革命家というよりはおどけた狂信者として描写されることが多かった。だが、薬莢の王冠を被ったこの牧師を変人と笑って受け流せる時代は、もはや過去のものとなりつつある。ますます多くの共和党員たちが選挙に負けたことへの反応として暴力を容認する、あるいは暴力を必要な手段とみなすなか、神の意志によって政権の転覆を図るという亨進氏の教えは、暴力を奨励する共和党員たちの格好のカモフラージュになっているのだ。

議事堂襲撃事件後に亨進氏が表明した政権交代への野望は、いまも揺らがない。8月末に連邦捜査局(FBI)がフロリダ州にあるトランプ氏の別邸「マーアーラゴ」の家宅捜索を行ったときも、亨進氏はまたもやSNS上で司法省のトップらを「ぺてんを撒き散らす忌々しい反社会的人間」と罵り、「アメリカよ、悪魔に抵抗せよ。神は我らと共にあられる」と訴えた。

亨進氏の幼少期は、控えめにいっても平凡とはかけ離れたものだった。

亨進氏は、ニューヨーク市郊外ウェストチェスター郡にある、約7万6890平方メートルの面積を誇る旧統一教会の敷地内で、外界から隔絶されて育った。2018年の著書の中で亨進氏は、「近所を自由に歩き回ったり、友達と一緒に出かけたり、屋外で自転車に乗ることは禁止されていた」と綴っている。「刑務所のような」自宅で孤独な日々を送っていた亨進氏のはけ口になったのが護身術の訓練だった。ブラジリアン柔術もそのひとつで(いまは黒帯所持者)、やがてそこに銃への愛着が加わった。

亨進氏の父である文鮮明氏は、韓国で設立され、いまや世界中に信者を擁する保守的な宗教団体・旧統一教会の教祖だ。鮮明氏は自らを「再臨のキリスト」と名乗り、かの有名な「合同結婚式」を執り行ってきた。信者たちは、こうした儀式によって罪の赦しを受けることができると信じていたようだ。鮮明氏は同性愛を重大な罪ととらえてこれを非難し、同性愛者の男性を「汚い犬」と糾弾した。

鮮明氏はアメリカでの服役を経て(過去に脱税罪で18カ月間の実刑判決を受け、服役したことがある)保守系新聞社のワシントン・タイムズを創設。これを首都ワシントンでの権力拡大に利用した。このほかにも、ブッシュ家とも近しい関係にあった。2004年に上院のダークセン・ビルで行われた奇妙な戴冠式では、数十人の議員の前で自らを「神の権化」と呼んだ。

2012年に鮮明氏が他界すると、旧統一教会の資産や事業をめぐって後継者争いが勃発。「人類の真の母」と崇められる鮮明氏の妻の韓鶴子(ハン・ハクチャ)氏がトップの座に就くと、韓氏は息子の亨進氏を旧統一教会から追い出した。ハーバード大学神学大学院で学んだ亨進氏は、父が自らの意志で選んだ後継者は自分だと主張している。

裏切られたと感じた亨進氏は母親を「大淫婦バビロン」になぞらえて恨み、2013年にアメリカで別の教団を立ち上げた。やがてこの教団はアサルトライフル銃を崇める教団へと変化し、2017年には名称をRod of Iron Ministriesに変えてリブランディングを行った。教団が世間に知られるようになったのは2018年のこと。このとき亨進氏は、フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件が起きたわずか数日後だというのに、信者が武器持参で教団の儀式に参加することを呼びかけたのだ。

教団の信者が金ピカの薬莢を束ねて作った王冠を戴く亨進氏は、AR-15こそが聖書に記された「鉄の杖」、すなわち神の意志を実行するための道具であると説く。このなんとも不可解な聖書の解釈は、「あなたは鉄の杖で彼らを打ち砕き、陶器のように粉々にする」という旧約聖書の『詩篇』や「主は鉄の杖で彼らを支配する」という新約聖書の『ヨハネによる黙示録』などに由来する。

Translated by Shoko Natori

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