Yogee New Waves 角舘健悟が語る、雑多な世界で見出した歌のバランス感覚

空気と調和する音づくり、夢へ続く歌詞の世界観

─なるほど……そもそも『WINDORGAN』というアルバム・タイトルから、私は「ふいご」のように空気を体に送り込んで音を出すような感覚に近い歌を聴かせているのかな、と感じていたんです。つまり、喉とか口で操作して歌うこと以上に、体全体を振動させたり響かせて歌う、と。そういう意味でも今回は歌が際立ったアルバムという解釈になるんですけれど……。

角舘:そういう感覚めちゃくちゃありますね。例えばリード楽器のサックスで言えば、(喉を指して)ここが振動するわけじゃないですか。体に空気を送り込んで鳴らされるという意味ですよね。「WINDORGAN」ってオランダにある建築物なんです。風や空気の振動によって音が鳴ったりするような。それに気づいた時、人間の体の在り方……声の出し方にそっくりだなって思ったんですよ。それは声とか歌だけじゃなくて、心で感じるようなことにも繋がるんですよね。だから、そういう解釈は本当にバッチリ!ですよ。

─しかも、それに伴って音質までもが変化している。最初にも話したようにすごく音がいい。それも、敢えて例えるならBGMになってもおかしくなさそうな、近年再評価が進む環境音楽やアンビエント音楽の音の質感にも似ているように感じます。



角舘:あ、それは嬉しい。アンビエント、すっごく好きでよく聴いてきたんですよ。通っていた大学で電子音楽をよく勉強していたんです。ライヒとかクセナキスとかの周辺の。音の振動で出したものがそこでエネルギーとなるけど、アーリーリフレクションとして返ってくるものもある、みたいな解釈はその時に学んだし。「Toromi Days」では自らシンセ……ヤマハのDX-7を弾いたんです。で、そこに薄く(ローランドの)JUNOを同じMIDIで通して……って感じで。裏ではよく聞こえないかもしれないけど、ギターをリバーブで薄く入れたりもしているんです。そういう音作り、機材の使い方ですよね。リバーブ、大好きで家に10個くらい持っているんですけど、コロナ期間中はそういうので音を作ったり試したりしていました。そういう環境で音を鳴らしていたら、鳥が家のそばで鳴くようになったり……アナログ・シンセと空気の調和っていいんだなって気付かされたりね。だから、例えば、部屋でマラカスを振って歩いている音を「Jungrete」の最初に入れたりしていて。「Long Dream」前後は部屋から町へ、そして夢の中に入っていく、という流れをうまく伝えたくて。ポエトリーをうまく表現して一つの作品にしたかったんですよね。

─その「Jungrete」でラップ……というかポエトリー・リーディングにトライされています。この曲から「Long Dream」を経た終盤は繋がりが非常に美しくて、実際に「Jungrete」の最後が“Long Long Dream”という歌詞になっているというのもありますし、「Long Dream」の次の曲……つまりアルバム最後の曲「White Lily Light」は歌のタッチがすごくオブスキュアで、確かにちょっと夢の世界に突入したような感じがします。

角舘:そうですね。「Jungrete」って、「Jungle」と「Concrete」という言葉を使った、「Concrete Jungle」を逆さまにした造語なんです。地方から東京に来た人からすれば、まさに建物やビルがジャングルのようになっている冷たい印象があるわけですけど、東京生まれの俺からすると、それがもう当たり前というか。木が覆いかぶさるようにビルがあって、そこによじ登るようにして遊んでいたし、そこを颯爽として行く感じが逆にすごく自然だった。言ってみれば「Long Dream」への発射台みたいな感じ。だからこの曲は確か詩が先だったんですけど、そういうプライベートと外と夢とが地続きになった感じがこの「Jungrete」から「Long Dream」へと繋がる流れに表せたかなと思っています。

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