映画『リスペクト』、アレサ・フランクリンの楽曲で紡がれる伝記映画

『リスペクト』は、はやくも型にはまった伝記映画と批判されているものの、楽曲のパワーは同作のやや直球型のアプローチによって少しも衰えていない。『リスペクト』は、土曜の夜にベッドから引きずりだされては、父の友人であるセレブたちの前で歌を披露する天才少女や、フランクリン史上最多セールスを記録した1972年の歴史的なゴスペルアルバム『至上の愛(アメイジング・グレイス) 』のレコーディングとともにミシガン州デトロイトでの少女時代を起点に、フランクリンの人生とキャリアを時系列順にたどる。人生の暗い時期を経験したフランクリンが教会のルーツに立ち返ることでおおむね救われるという筋書きだ。音楽の観点から見ると、これは同作が鳴かず飛ばずのコロンビア・レコード時代とプロデューサーのジェリー・ウェクスラーのもとでスーパースターとしての地位を確立したアトランティック・レコード時代を網羅し、デトロイトのインディーズレーベル、J-V-Bレコードとの最初の契約にも軽く触れていることを意味する。総体的には、主にフォレスト・ウィテカー扮する父と最初の夫であるテッド・ホワイト(マーロン・ウェイアンズ)など、生涯にわたる"男性支配"との闘いを重要視した作品である、というのが筆者の個人的な見解だ。


アレサ・フランクリンを演じる、ジェニファー・ハドソン(左)と父親を演じたフォレスト・ウィテカー(Photo : Quantrell D. Colbert/Metro Goldwyn Mayer Pictures film)

父に抑圧されながらも、フランクリン(スカイ・ダコタ・ターナーが少女時代のフランクリンを演じている)は私たちが知るところのパワフルな歌手とは相容れない、従順でおとなしい女性へと成長したかのように見える。母(出番は短いながらも、オードラ・マクドナルドが演じている)の死と、劇中では少女時代の性的虐待の延長として描かれている二度にわたる十代での妊娠(フランクリン本人はこれについて公の場で語ることを嫌がった)を経験した若き日のアレサは、事実上口を閉ざしてしまう。これによって映画は、後に彼女が克服する"悪魔"の存在を軸に展開し、『アメイジング・グレイス』による自己救済へとつながっていく。それだけでなく、全編を通してフランクリンの声のパワーという特殊かつドラマチックな電流が流れているのだ。世を去る前にフランクリンの母は、彼女の声の所有者は父ではないと念押しする。コロンビア・レコードのプロデューサー、ジョン・H・ハモンド(テイト・ドノヴァン)のオフィスで娘を自慢するその後のシーンを見る限り、どうやらクラレンス師にこのメッセージは届かなかったようだ。若き日のアレサが自らの完全な意志ではないにせよ、沈黙を破っていく姿は圧巻だ。初期の彼女は、歌いたいから歌うのではなく、歌えと言われたから歌っていた。そんな彼女は歌を愛するだけでなく、天賦の才能を持っていたのだ。

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Translated by Shoko Natori

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