映画『リスペクト』、アレサ・フランクリンの楽曲で紡がれる伝記映画

故アレサ・フランクリンを演じる、ジェニファー・ハドソン(Photo : Quantrell D. Colbert/Metro Goldwyn Mayer Pictures film)


フランクリンの生い立ちは、実に奇妙だ。教会に集う信者たちについて「この界隈屈指の変人たち」と古めかしいジョークを飛ばしている劇中の人物はひとりではない。それに劇中のアレサがこうした考えを表明していないとしても、歌手のベティ・ラヴェットが「紳士的なひも」と呼んだ最初の夫の選択は、反抗から逸脱した平行線を描いている。この逸脱によってフランクリンは父から解放されることもなければ、同作を通じて物語をたどる私たちは当初のコンセプトからも逸れていく。めくるめくカメラワークはカップルの官能的なファーストキスをとらえ、関係が進むにつれて男性の暴力と不安定さに影響された危険なロマンスに対するクローズアップやケーススタディ的な視点を強調していく。この暴力はホテルのロビー、さらにはタイム誌のページから溢れ出したものであり、アトランティック・レコードで手に入れた最初の栄光とも重なる。アトランティック・レコードのプロデューサー、ジェリー・ウェクスラー(マーク・マロン)との有名なパートナーシップ、さらには彼を通じて実現したアラバマ州マッスル・ショールズのフェイム・スタジオのミュージシャンとフランクリンの荒削りな才能とスタイルの圧巻の化学反応の大半は、短気な夫テッドによって出端からくじかれてしまう。フランクリンが有名になればなるほど、テッドの自尊心と支配力も増大するのだ。



だが、フランクリンはますます有名になり、それとともに勇敢になっていく。駆け出し時代のフランクリンの自信のない態度を表現するにあたり、前向きで率直なハドソンは手術用のメスを使うように自身のペルソナからこうした要素を切り落とさなければならなかった——自分が女王であることに気づいていないフランクリンを演じるために。徐々にフランクリンは、当時のヒット曲から私たちがイメージするパワフルな存在、「R, E, S, P, E, C, T」と歌って世間の敬意を求めたアレサへと変身していく。そこでもうひとりのアレサが登場する。悪魔とライバルに対する嫌悪感を抱えたモンスター、罰を求めるほど空っぽになってしまうアレサが。だが、映画ではこの時代は良くも悪くも割愛されている。映画がこの時代に触れる頃には、すでに大半のことが起きているのだ。映画の上演時間は2時間半近い。だからこそ、次の半世紀に訪れるいくつもの困難の可能性をはらみながらも勝利とともに物語は幕を下ろす。

Translated by Shoko Natori

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