政治や世論をも動かした「アメリカの歌声」、アレサ・フランクリンの政治的影響力

アレサ・フランクリン、1975年のポートレイト(Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images)

アメリカを象徴する歌声だったアレサ・フランクリン。さらに黒人女性であったがゆえに、彼女の歌う曲は音楽の枠を超える存在となった。パワー、強さ、歌声を兼ね備えたアレサの音楽には、政治的な影響力もあった。

オーティス・レディングは、自分のオリジナル曲が自分のものでなくなったと感じていた。1967年、彼がこの世を去るわずか1か月前に出演したモンタレー・ポップ・フェスティバルの伝説のステージ上でレディングは、“アレサ・フランクリン”という名前を口に出すまでもなく、彼女に屈することとなった。「次の曲は」と、息を切らしたレディング。「ある少女が俺から持ち去ったものだ。彼女は俺の親友だけどね」と紹介する。レディングの目と声からは、フランクリンに対する尊敬の念と、彼女に敗北したことへの妬みの両方がにじみ出ていた。「ワン、トゥー、スリー」のカウントに続いて『リスペクト』の演奏が始まると、まるで自分のオリジナル曲をレディング自身がカヴァーしているかのようだった。

『リスペクト』の歌詞には政治的な意味も含まれている。レディングの歌詞とリズムに乗って歌われる『リスペクト』では、ある黒人男性が、北部で平穏に暮らす人種差別主義者たちによって国が引き裂かれたために得られなかったものを、妻に求めている。フランクリンのバージョンは同じテーマを扱いながらも、彼女が歌うと命令調ではなく“お願い”になる。男性上位のアメリカでは、このような性別の裏返しが重要になる。何といっても、フランクリン・バージョンでは、妻の方が全財産を夫へ与えようとするのだから。レディングのオリジナル・バージョンは、問題に対処しようとするストーリーだった。一方で当時24歳だったフランクリンのバージョンは、曲を改革のアンセムに変え、人種と男女の平等のために闘う多くの人々に支持された。

意図的にそう仕向けた訳ではなかった。必然だったのだ。『リスペクト』が、ひとりのアメリカ人が歌った曲として最も影響力を持つ作品のひとつとなった背景には、黒人差別や男女平等問題に関する国を挙げての議論や審判の盛り上がりがある。政治問題を語るつもりはなくとも、我々の肌の色や身体、さらに声がそれを許さない。2018年8月16日の朝に膵臓がんで76歳の生涯を閉じたフランクリンは、曲もスキルも他のシンガーを圧倒し、我々の多くを魅了した。彼女の音楽は、片方の自由はもう一方の自由があってこそ成り立つということを認知しながら、性別や人種の平等を同時に訴えた。クイーン・オブ・ソウルは女性として初めてロックの殿堂入りしたが、ソウルやロックは彼女の幅広い才能の中ではほんの一部のジャンルでしかない。彼女の才能はカントリーからオペラにまで及び、いつでも原点のゴスペルへ回帰する。教会やコンサートホールでアメリカ人を前に歌う時でさえフランクリンは、積極的に黒人の現実を訴え、市民の権利のために闘う人たちに勇気を与えた。



Translated by Smokva Tokyo

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