ライブ完全復活、「生の興奮」を取り戻したアメリカの音楽ファン

ハッピーエンドは訪れない、それでも音楽がある

ブロードウェイは今週末から正式に営業を再開した。最初の公演はなんとブルース・スプリングスティーン。小規模なソロ公演の再演だ。「今夜みんなに会えてうれしいよ」と彼は言った。「マスクなしで、肩を並んで座っている。ここまで長かった。喜びもひとしおだ」 彼の言わんとすることは明らかだった。ブルースは2018年、「ふだんの仕事に戻る」といってブロードウェイ公演に幕を閉じた。だがスプリングスティーンの曲に出てくる大勢の野郎ども同様、彼もまたなじみの仕事が消えてしまったことを知った。予防疾病管理センターの指示で、最近ではスタジアムを沸かせる仕事もほとんどなくなってしまった。


6月28日、ニューヨークのセント・ジェームズ・シアターで行われた「スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ」再演でのブルース・スプリングスティーン(Photo by Taylor Hill/Getty Images)

観衆を圧倒することにかけては天下一のスプリングスティーンは、昨年秋に『A Letter to You』をリリースした。演奏する場を失ったみじめな気持ちを歌ったコンセプトアルバムは、まるで「Bobby Jean」のように、ある日突然目が覚めたら観客からソッポを向かれたかのように、彼がどれほど観客を待ちわびていたかが痛切に表われていた。新作にはドラマティックなシンガロングのパートが満載で、僕らが加わるのを待ちわびていた。彼も僕らと同じぐらい、ライブの歓喜を求めていた。古巣に戻る彼の姿を見るのは鳥肌ものだ。おそらくブルースは正しかった――ひょっとしたら、死に絶えたものもいつかすべて戻ってくるかもしれない、と。

パンデミックにハッピーエンドはないし、現実には終わりすら見えない。僕らはみな惨劇の中で、数えたり並べたりする間もないうちに、自分の一部を失った――火事ですべてを失ったかのように。大勢が家族を失い、友人を亡くした者もいる。はた目には、その人がパンデミックで失ったものが何かを知るすべはない。だが無傷ではない。すべてが終わるまで、まだ長い道のりが待っている。

だが僕らは、危機を克服するよすがとして音楽にすがるように、音楽が未来へと導いてくれると信じている。デイヴ・グロールはフー・ファイターズのショウで、こうした気持ちを言い当てた。「この1年、俺は何度も同じ夢を見た」と彼は「Best of You」の途中でこう語った。「ステージに向かって歩いて行き、そこで初めて互いに顔を見合わせるんだ。数分経っても、俺たちは顔を見合わせている。『助かった、今夜はここに集まれた』ってね。今夜はマジでステージの上に立てた。本当に夢のようだ」

「今夜はここに集まれた」、この気持ちがこの日のショウのすべてを物語っている。絶対必要な場所ではないが、これまではなかった場所。ソファから身を起こし、人ごみに紛れ、冷凍庫で積もった霜を落とすとき。これこそ祝福するべき瞬間だ。僕らが再び歩みを共にする中、なぜライブ音楽が今も、そしてこれからも、足を運ぶ価値があるのかを思い出させてくれる。歩み出すのだ、再び。この言葉を口にする日を僕はずっと待ちわびていたが、ようやく言える。みんな、会場でまた会おう。



From Rolling Stone US.

Translated by Akiko Kato

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